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それは鳩原Aにとっては珍しい事だった。回らない頭を必死に動かそうとするけど、回らないものは回らなくて、纏まらない思考のまま言葉を出す。それが危険な事だと、今の彼女は理解出来なかった。
影浦に言う事がある。荒船に言わなきゃいけない事がある。その二つだけに意識を向けた。
「知らない。本当に知らないんだよ、カゲさん。だって未来はいつだって肝心な事は何も教えてくれないから。何も聞かせてくれないから。肝心な時ばっかり聞こえなくて、それなのにこの耳は余計なもんばっかり拾うんだ。」
「さっきから何の話だよ。」
「裏切ってない。カゲさんの事、裏切ってなんかない。」
阿呆みたいに同じ言葉を繰り返す。壊れた玩具みたいに、何度も繰り返す。
「A。」
そこでやっと我に返った。両肩をしっかりと掴んで覗き込んだ影浦の顔は苦しげだった。何でカゲさんがそんな顔してるの。感情が刺さってるの?大丈夫?なんて問うた言葉は喉で止まって外には出ずに押し戻される。心臓の付け根を握り潰されたみたいに痛い。
「落ち着け、大丈夫だから。」
「痛い。」
「おう。」
「自分がじゃない。」
「痛かねぇよ。」
人の意識とは難しいもので、向けまいと意識すればする程向いてしまう。Aは影浦が一等優しいのを知っている。痛くないはずがないのに嘘をつく。その優しさが猛毒だ。
ふとAの視界の端に荒船が映り込む。あぁ、そうだ、この人にも言う事があった。
その視線に気付いた荒船が顔を覗き込んだ。
「ごめん、ごめんなさい荒船さん。」
「A…?おい、どうした。謝られる事は何も…」
「迷惑かけた。」
「迷惑?」
Aの言ってる事がいまいち伝わって来ず荒船は首を傾げる。
「未来の事で。」
「迷惑なんてかかってねぇよ?」
誰だ余計な事を言いやがったのはと内心毒づいたが表には出さなかった。第一、顔に出なくともAには分かってしまう。
「違う。勝手に聞いた。」
その瞬間に荒船は先程言っていた「この耳は余計なもんばっかり拾うんだ」と言い放ったAを思い出した。らしくもないAに荒船は何だか申し訳ない事をした気になって、そう思うのも今のAには負担になるのだと思った。「あぁ、大丈夫だ」なんて気休めにもならない言葉しか荒船には吐けなかった。
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はな(プロフ) - レモン味のかき氷さん» コメントありがとうございます!嬉しいお言葉…✨鳩原先輩関係の人主人公にした面白いんじゃね?っていうノリで作っちゃいました笑 原作でも謎多き、って感じなのでめちゃくちゃ捏造しまくると思いますが、これからも面白いと思っていただけるよう頑張ります! (2022年6月5日 18時) (レス) id: 906e49b810 (このIDを非表示/違反報告)
レモン味のかき氷(プロフ) - コメント失礼します!最初に、この作品の発想から凄いです!!同じ作者として、予想できない展開等あったので、時には楽しんだり、時には衝撃を受けました!リアルの方でお忙しいと思いますが…更新頑張ってください💪🔥 (2022年6月5日 16時) (レス) @page4 id: e6207c7e03 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はな | 作成日時:2022年6月4日 18時