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咳払いをした男は真っ直ぐにAを見据えた。面談という名の取り調べを行ったのはAだけじゃない。二宮隊もだ。彼らは取り調べに少なからず動揺を見せていた。分かりにくい二宮も、愛想笑いの得意な犬飼も。その中でAだけが表立った変化を見せなかった。それには理由があると考えた方が妥当だ。
そう語る男にAは妙に納得した。つまり疑われてるのだ。自分が未来に近界に密航するように差し向けたと。ボーダー隊員でもなかったAにそうする理由なんてないのに。


「誰が言ったの?」


会議室に入ってからずっと握ってた手がじわりと熱くなってたのに今更気づく。爪がくい込んでるのにも今更ながらに気づいた。


「君の元隊長だと言ったら?」


手にまた力が入る。
そんな馬鹿な話はない。だって影浦は未来が近界に密航した事を知らないのだから。彼らはただの規律違反を犯したとしか思ってない。だから、ありえないのだ。ありえないのに、男の言葉が嘘でないのを分かってしまった。


ねぇ、未来。今どこにいんの?


そんな声は届くはずはなくて、Aの体はひたすらに痛みを訴える。痛い。頭が痛い。痛い。胃が痛い。痛い。握る手が痛い。その痛みから逃れたい一心で無意識の内にトリオン体に換装していた。


「それからついでにもう一つ。荒船君のことなんだけど…」


何でそこで荒船の名前が出るのだ。疲れて呆れた様な声を漏らしたくなって呑み込んだ。荒船の狙撃手転向の理由はAも知ってる。聞いたから。だけど態々あのタイミングでする事はなかったじゃないか。そう思っていた。しかし荒船はあのタイミングだからこそ転向したのだ。あのタイミングで自分が転向すれば人の噂は荒船に移り変わる。弟子に簡単に抜かされた師匠だと囁かれ、加えて抜かされて狙撃手に逃げて来たという噂が持ち切りになる。荒船はそれが狙いだった。鳩原の件で話が持ち切りだったのに、人とは意図も容易く新たな噂に食いつくのだ。
つまり簡単に言えば、一大事かもしれないが、詳細は分からず当事者のいない噂より目の前に当事者のいるゴシップの方が話題になりやすいと荒船は考えたのだ。


「上の連中が荒船さんが何も言わないのを良い事に利用してたんじゃん。未来の事を公表できないから。だから、荒船さんの噂を利用した。」
「そうだね、君がお姉さんを唆して近界へ密航さたから、荒船君はこんな事になったんだね。」


今、少女の縋れる相手はこの世界にいない。

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はな(プロフ) - レモン味のかき氷さん» コメントありがとうございます!嬉しいお言葉…✨鳩原先輩関係の人主人公にした面白いんじゃね?っていうノリで作っちゃいました笑 原作でも謎多き、って感じなのでめちゃくちゃ捏造しまくると思いますが、これからも面白いと思っていただけるよう頑張ります! (2022年6月5日 18時) (レス) id: 906e49b810 (このIDを非表示/違反報告)
レモン味のかき氷(プロフ) - コメント失礼します!最初に、この作品の発想から凄いです!!同じ作者として、予想できない展開等あったので、時には楽しんだり、時には衝撃を受けました!リアルの方でお忙しいと思いますが…更新頑張ってください💪🔥 (2022年6月5日 16時) (レス) @page4 id: e6207c7e03 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:はな | 作成日時:2022年6月4日 18時

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