59話 ページ15
ぼんやりと、目の前の砂を眺める。さっきまで巨大な猫だったとはとても信じられない
更に、目の前の出来事も信じられなかった。普段はどんくさいはずの少女が、小さな刀の一本であの化け猫と渡り合っていた
神というにはあまりに俗っぽく、鬼と呼ぶには清浄だった
ボクらは異質と呼ばれ続け、蔑まれてきた。そのボクが初めて思った、本物の『異質』
____貴女は、『何』だ?
ようやく気づいた背中の寒気に、自分がこの少女に恐怖しているのだと気が付いた。何を馬鹿なことを、と自分を叱咤する
助けてもらったくせに、何も出来なかったくせに。何様のつもりなんだ
そもそも自分は彼女に謝らなければいけなくて、だからこうやって来たはず……なのに
貴「まふまふさん」
ぐるぐるとおかしな方向に回る思考が断ち切られ、「はい?」と変な声で返事をしてしまう。しかし彼女は気にとめた様子もなく、
貴「事態は想像以上に思わしくありません……急いで帰りましょう」
ま「この猫のこと?別のとこから迷い込んできただけの……いや、違うか」
「はい」と微かに残る雫の跡を払って、力強く頷く
貴「先程の方は、理性が全くありませんでした。それだけならおかしなこともないのですが、私があの方から感じられたのは『怨念』だけです。
それに身体が崩れるのもおかしいのです。祓われたわけでもない……命があるなら再生するはずなのに」
後半の憂い顔に気づかなかった振りをして相槌を打つ。確かにおかしい。だが、心当たりがないわけじゃない
ま「つまり、魂がない状態で彼は動いてたと」
貴「そうとしか考えられません」
その言葉が何を意味するかくらい、ボクにでもわかる。妖気の減少によって、安らかならざる魂が旅立ったのだろう。無意識に拳を握りしめる
貴「___申し訳ありません」
か細い声で、彼女が呟くように言った。思わず聞き返しそうになって留まる
貴「今の私が神なら……いえ、私に力があれば。今の方も救えたはずです」
ま「……」
貴「ずっと……ずっと、私たちはあなた方に何も出来ていない」
俯いた瞳から、ぽたりと静かな雨が降る。それはボクに対する謝罪というより、今までの懺悔のように聞こえた
それが、いつかの自分に重なる。何も出来ない、無力な自分
1番辛いのは___
ま「馬鹿じゃないの?」
つむじが見えるその頭に、僕は手を振り下ろした
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作者名:笹乃葉 | 作成日時:2023年7月5日 18時