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1-3 side:K
相手の確証を持った呼びかけに対して、俺は疑問形で返してしまう。けれど、よこーさんに言われていたすぐに分かるという意味は、理解できたのかもしれない。
「こっちへ、北山」
バーカウンターにいる女性に会話を聞かれないようにするためなのか、藤ヶ谷に伴われる様にして少しだけ壁側に移動する。二人して壁に背を向けて、視線をダンスフロアに向けた。会話しているのも気取られないようにするためか、少し低い小さな声が俺の耳に届く。
「・・・渉から話は聞いているだろ」
「・・・え、うん。何となくだけど」
「この曲が終わったら、ターゲットに接近する」
そう言って、ロックグラスを傾ける。飲み干した後に、ペロッと唇の端を舐めるような姿が酷くセクシーだ。ジッと見つめる視線に気がついたのか、藤ヶ谷が俺を怪訝な顔で見つめる。
「・・・俺の顔に何かついてるか?」
「えっ!?あ、いや、その」
「・・・経験ないのか?」
こういうこと、と突然藤ヶ谷が俺に影を作るかのように目の前に立ち、頭の横に片手を突かれる。あまりに急なことに、俺はびっくりして目を見開いた。少しだけ近づく顔――もうすぐ唇同士がくっついてしまいそうで、俺は何度も瞬きを繰り返す。
「け、経験って・・・キスくらいはあるわ!」
「・・・キス?俺は、“この仕事の経験”のつもりで聞いたんだけど」
「あっ・・・やだ・・・何だよそれ」
恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして俯く俺の耳に、ふぅー、とかけられる甘い吐息。完全に俺は今、藤ヶ谷に揶揄われているのだ。
「とりあえず俺の傍から離れないように・・・あとはその純粋な感じでいてくれればそれで」
その方が近づきやすいから、とクスッと微笑む藤ヶ谷が手に持っていた自分のグラスを俺の唇にピタッとくっつけた。
「・・・誰とキスしたことがあるのかは野暮だから聞かないでおくね」
思わず強がりで吐いてしまった言葉だと見透かされているような気がして、俺は恥ずかしさに耐え切れそうになかった。
――実家で飼っている犬とだなんて・・・言えない。
飲み物はもう空になっているのに、甘い香りを感じるのは、先ほどまで藤ヶ谷が口をつけていたからなのだろうか。ひんやりした感触が離れていくのを感じて、俺は両手で唇を隠し、そっと自分の唇を舐めとってみた。
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作者名:ほわわ | 作成日時:2019年5月7日 0時