飼い主様はどちらやら (ページ9)

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天使9 ページ9

「なぁ～嫁兼屋ちゃん

お前んちってあのやばいとこの組なんだって？」

話しかけてきた同級生だろう男は嫌みな笑みを浮かべている。
名前も覚えてないけど、こいつはどうせ僕を虐めたいのだろう。

「え？なになにー？

あのやばいとこって…まさか火貂組？？」

「まじかよ！

こんな女みたいなナヨナヨした奴がー？」

下品な笑い方。
顔も良くないのに性格が良くないとか終わってるね。
優しい僕はその言葉を聞いても何も答えない。
答える価値がないから。

「…おい、いい加減なんか言えよ

無視してんじゃねぇぞ」

『……はぁ』

今日は本屋に寄って帰ろう。
それでなんか適当な本でも買って適当に過ごそう。
席を立った僕の腕を掴んだのはまたもや名前の知らない奴。
そういえば、僕誰の名前も覚えてないんだった。

『そんなに気になるんだったら

その組の門たたいて聞いてみれば？

まぁ、君たちにそんな勇気があるかは知らないけど』

鼻で嗤ってやれば、馬鹿はすぐに興奮するから。

「っなんだとこの『あのさ』あ？」

『今きみは僕の胸ぐらを掴んでいる訳だけど…

もし僕が本当に組と関係があったらって考えないの？』

緩んだ腕を外して制服を整える。
馬鹿は力に頼るから嫌いなんだよね。
そういう時は精神から潰してあげればいいだけだ。

『威勢だけで生きていけるのは小学校までだよ

自分の力を過信せず

喧嘩を売っていい相手かどうか見極めなきゃ』

___________死ぬのはお前だよ？

やだなぁそんな怖がらないでよ。
僕はヤクザじゃなくて可愛い可愛い男の娘なんだからさ。

鞄を肩にかけ教室を出る。

『雑魚の癖に僕に話しかけるとか頭悪すぎ』

誰も助けない。助けてなんてくれない。
必要なんて微塵もないけど笑っちゃうよね。

家の鍵を開け、その寂れた家に入る。
ここには僕しか住んでいない。
正確には、僕も家を移されてここには住んでいないけど。

あの犬が寄越した舎弟には見つからずに来たから、少しは1人になれるはずだ。

『…僕も連れて行ってよ、お母さん』

愛しくて憎い母の顔が浮かぶ。
記憶の中の母はいつも笑っていた。
だけど彼女は幸せじゃなかった。

その理由を僕は知っている。