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天使8 ページ8

左馬刻から言われ仕方がなく、イケブクロの萬屋ヤマダへ向かう。
俺はあいつの組の対応をしていると言っても、ガキの世話まで見るつもりなど無いのだが、問題を起こされれば無視もできない。
車内が煙くなる勢いで消費されるタバコを消し、窓を開けて換気する。
仮にも未成年でローティーンが乗るのだから多少の気遣いはしなくてはいけない。

ネットに載っている住所に来たが、まあ普通の一軒家だ。
兄弟3人だけで住むというならむしろ贅沢にも感じる。


ありきたりな音を響かせるインターホンを鳴らすとガチャリと、扉が開かれる。
うわ、と心底嫌そうな声を漏らす生意気な次男坊には構わず、外向けの笑顔を浮かべた。


「突然すみません

ここに、嫁兼屋宵という少年が来ていると思うのですが」


「あー…、ちょっと待ってろ」


一度扉が閉じられると奥から迎えが来たぞー、と大きな声が聞こえてくる。
嫌だ嫌だと抵抗しているようだが、山田兄弟で説得に当たっているらしい。


「失礼します

宵、帰りますよ」


『…あの犬のところなら帰らない』


「左馬刻も組員たちも心配してます」


『心配?

あー、ジジイから預かった荷物が勝手に減ってたらまずいもんねー』


皮肉な言い方をするほどの頭があるのがこのガキの厄介なところである。
すると


「こら、宵

いい加減にしろ

入間さんがわざわざ迎えに来てくれたんだろ」


『頼んでないもん』


「いいから今日はもう帰れ

また今度ちゃんと連絡してから来いよ

そうしたら遊んでやるから」


さすが年下を相手するのが上手いらしい山田一郎は、拗ねて頬を膨らませている彼の頭をわしゃわしゃと撫でる。
反抗する気も失せたのか、素直にこちらに来る彼の荷物を受け取り、もう一度山田兄弟に礼を言って家を出た。


「左馬刻の機嫌はもともと悪いですが

その格好では火に油を注ぎますよ」


『いいの、わざとだから』


「はぁ…いい加減子どもみたいなことはやめたらどうです?

普通にしていれば、充分な生活が出来るでしょう」


俺の言葉を聞くと、彼は窓の外を眺めた。


『あんたらにとって充分な生活がどんなことを指してるのかわからないけど

僕は、大人しく組に飼われる生活が充分だとは思わない』


少し重くなった空気に口を開く気にはなれなかった。
彼の飼い主の家に着くまであと数十分。
いや、ハマの狂犬を飼う組の後継候補と
その後継候補のリードを握る狂犬。
これではどちらが飼い主かなんてわかりゃしないな。

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作者名:忌子の君 | 作成日時:2020年1月4日 5時

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