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病気だったらしい。
救急車で運ばれた先で、真っ白の…彼女の肌の色によく似た色の白衣を着た先生は、難しい言葉を言った。とりあえず、彼女が重い病気であることは、先生の顔色と声音から読み取れた。
こういうときだけ読み取れてしまう自分に嫌気が差した。
2本のチューブを繋げた彼女は、真っ白で殺風景な病室で、呑気に眠りについている。
これじゃあ本当に、現代の白雪姫みたい。
「A〜そろそろ起きてぇや。話したいこと、いっぱいあるんやで」
昨日の打ち合わせで、おせんせんが気持ち悪い踊りしててん。
それでな、めいちゃんにゲラゲラ笑いながら「気持ち悪!!」って言われとってん。僕も笑ってもうた。
今日はな、なるせが心配して電話かけてきてん。
でな?「元気出して」って言われたから、「じゃあ即興でおもろいラップして」ってゆってん。そしたら、なるせめっちゃおもろいラップしてん。僕、外におったのに笑っちゃった。
肝心のどんなラップやったかは忘れちゃったけど、今度またしてもらお。Aも一緒にラップ聞きに行こ。
やからな。A。起きて、早く。
そんな想いを込めて、彼女の赤みの薄れた唇に口付けをした。
さわ、と薄っすら開いた窓から夏風が吹いた。
「…………ん、ん…」
そんな声が聞こえた。
ばっ、と慌ててAを見ると、目をぎゅっと瞑ってゆっくりと薄く瞼を開けた。
ゆらゆらと大きな瞳が宙を漂い、やがて僕に焦点を合わせた。
「………る、すく…」
「…おはよ、A」
「えへへ…おは、よ」
彼女の細く薄い手を握ると、彼女は弱い力で、でも確かに僕の手を握り返した。
そして、僕の大好きな微笑みをたたえた。
夏風には似合わない笑顔やな。
そう思った。
×× without you ××
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作者名:作者一同 | 作成日時:2019年10月6日 10時