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「昨日の夜。塾から帰る途中、―――トラックにアタックされちゃってさーー、...即死だった、っぽい」
「この期間、は、完全に天国に行くまでの猶予期間なんだって。未練とかそういうのじゃなくて、成仏とかでもなくて。うーーん、どう説明すればいいんだろ......」
「通知表が出るまでの成績処理期間、みたいな感じ?」
「あーーーっ、そうそれ!センラくんあったまいい!」
酷く非現実的な話をしているのに。
死、だなんて、重いことこの上ない話をしているのに。
成績で例えられてしまうような空気感に、どこか気が抜ける。
ざわざわと窓の外の葉が震える。心地よい風が旧校舎の湿り気を換気するが―――どこか雨が降りそうな、そんな葉音と風音がする。
「別に未練なんてないんだよ―――ほんとに。ほんとうに」
「だってね、」
「親と喧嘩別れしたわけじゃない。
友人と仲違いしたわけじゃない。
片恋相手がいたわけじゃない。
絶対叶えたい夢があったわけじゃない。
――――――私が生きてきた人生で皆は私に優しかった。辛いこともあったけど苦しいこともあったけど、皆は私に優しかった。
世界は、少なくとも私には優しかった」
ただ、静かに聞いていた。
少なくとも俺が。
否定も、反論も、肯定すらも。
かけることができるわけ、なかった―――だってこれは。
彼女の、Aだけの。
人生だから――――――人生、だったから。
――――――――――――――――――だけど。
「楽しかった――――楽しかった、なあ」
生きててよかった。
そう、笑顔で、呟く彼女に。
俺は問うた。
「なぁ――――――――――なら、何で泣いてるん?」
今この瞬間、瞳から水を落としたAは。
きっと最初から心でずっと泣いていたのだろうと―――空気が潤む、肌が湿る、彼女の雰囲気を思い出した。
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作者名:作者一同 | 作成日時:2019年10月6日 10時