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それだけ言って、真冬様はそそくさと帰ってしまった。そんな事言われると思っていなかったので、驚きながらも、嬉しかった。
でも、真冬様にそう言われた時、私の頭の中に浮かんだのは天月様の顔で。
これは、どうしたら良いのか。
一人悩んでいると、隠れていた筈の天月様はいつの間にか横にいて。
「A様、嫁がれるのですね。」
少し震えた声でそう言う天月様。横を向けば嬉しそうな、寂しそうな、そんな表情をする天月様の顔が。
何故、その様な表情をするのか。
今の私には、分からなかった。
それに、
私の天月様に対するこの気持ちが、持っていても良いものなのかも。
◆ ◆ ◆
それからと言うもの、毎日天月様とお話をしたり、皆に気付かれない様に屋敷の中を回ったり。
とても楽しい日々を過ごした。
こんなにも誰かといる事が楽しい事だとは知らなかった。もしかしたら、惹かれている人と一緒だから、というのもあるかも知れないが。
夜、外を見れば明後日には満月になる月の姿が綺麗に見えた。
「天月様、月が綺麗に見えますよ。」
「…はい、本当に綺麗ですね。」
あぁ、私はこれ程までに人を好いた事など無かった。屋敷の中からは滅多に出れず、まさに籠の中の鳥の様な生活を送ってきたから。
今が幸せでならない。
◆ ◆ ◆
「A様。もう、寝られたのですか？」
罪を犯したそのものは、一度寝ている事を確認し、気付かれぬ様に筆を取る。
一枚の紙に、伝えたい事を。
もうすぐ迎えが来てしまう、それに抗がう事など出来ないから。せめて、自分の気持ちだけでも伝えようと。
元いた場所へ戻ってしまえば、この地での記憶は直ぐに消えてしまう。
明後日、いや、もう明日か。
十五夜の満月の夜、月から僕をつれ戻すもの達がやって来る。
この国へ降り立ち、様々な人と巡り逢い、そしてこの都で貴女を見つけた。
なんて幸せな事だろうか。
ずっと、月の都から見ていた。
夜、月が綺麗に見える日には、必ず外に出て月を眺める貴女の姿を。
持ってはならない、心を、感情を。そして、月のものである僕は遠い地球のものに＿＿＿
頬を涙が伝う。
これは、悲しいという感情か。心が非ずと書いて悲しいとは、この国の人々は不思議な事を考えるものだ。
それでも、良かった。貴女には、僕でなくとも、貴女を幸せにしてくれる人がいるではないか。
嗚呼、僕がこの地の人であったのならば。
僕はA様と、
結ばれる運命も、あったのだろうか。
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作者名：作者一同 | 作成日時：2019年10月5日 5時
