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「もう、日が暮れるね」


「そうやねぇ」



2人の冷たい指を絡めさせ、どこに行くわけでもなく、ただのうのうと歩き続ける。



「ね、あのビルの屋上から夕日見たらめっちゃ綺麗なんやない?」



オフィス街にそびえ立つ、1棟の大きなビルを指さしてみせた。



「……でもどうやって行くの?」


「今日でせかいはおわるんやろ?だったら誰もいないから入れるって」



思った通りそこに誰かがいる気配はなく、しんと静まり返って自然光に照らされたオフィスは、状況が状況なだけあって少し不気味だった。



「きれいだね」


「そうやねぇ」



鮮やかなオレンジ色に染められた彼女は言葉にできないほどにきれいで。

やっぱり世界が終わるなんて、明日が来ないなんて、そんな風に思えなくて。


おもいたく、なくて



「……A?」


「ん?なあに?」


「"やり残したこと"、なんか他にもない?」


「えぇ、もうないよ」



先程までとは違う穏やかな顔で、彼女は笑う。
その笑顔のせいか、強く繋がれた手のせいか、何かが込み上げてくるのを感じた。



「……俺、やっぱりあったんやけど、いい?」


「ん」



彼女の頬に手を添え、優しく、優しく、キスをした。
彼女の唇が小さく震えているのを感じる。



ああもっと早くに気持ちを伝えておけば良かった。


心からそう思った。



これからもずっと一緒になりたいと。


心からそう願った。




「A、幸せ?」


「へへ、今が一番幸せだよ」


「俺も……」





このまま幸せを閉じ込めていたいと、そう、思わない?





「ねぇA。一緒に逃げへん?」


「え、どこから」



困惑する彼女の両手をぎゅうと握り、今日1番の笑顔で俺は言った。



「この世界から!!」

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作者名:作者一同 | 作成日時:2019年10月5日 5時

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