小さな小指 ページ1
この世界にはある不思議な店があった。
何の変哲もない、マグルの店と変わらない看板に雰囲気。
ただの写真屋。ショーウィンドウに飾られているのはどれも昔の写真だ。
白黒写真に、カラー写真。どれも画質や色味がいいわけでもない。
けれど、この店には物好きの客がよく訪れては少し変わって帰っていく。
満足した顔で写真を持ち、「また来るよ」と笑顔でそう言う。
それに決まってその店の看板娘はこう言うのだ。「約束ですよ」と。
黒く癖の強い髪をひとまとめにして、それなりに整っているであろうパーツを様々な表情に変えては人の目を引き付けた。
看板娘とは言ったって男な店主と何ら変わらない服を着て、誰でも変わらない態度で接客をしていた。
店の中で一日中走り回り、接客をしては笑顔をプレゼント。いつも無愛想な男の店主も時折微笑むものだから、客は大層この店を気にいるらしい。
今日もそんな笑顔が見られるのを願い、客はその店に足を運ぶ。
が、その看板娘、今日は休みらしい。
代わりに店主の弟が彼女を見習って走り回っていた。
この店の店主は若い。勿論、10代ではないが若者の顔をしていた。
綺麗な金髪に宝石のようなブルーの瞳。
顔は二度見するほど整っていて、カメラ側で働いている方が勿体無い。
むしろモデルをやった方が良い体系、顔つきをしているのだ。
身長の低い彼女に比べ、彼は頭二つほど大きい。客のほとんどが見上げるような形になるのだ。彼女の身長は170センチ前後、ならば彼は180後半か、190前半だ。
男女二人で店をやっているから、ある夫婦がこう聞いた。
「ご夫婦で経営してるんですね」と、相手に全く悪意が無いとしても、二人は林檎のように赤くなって全否定したのだとか。
それ以来、外国で絵画の勉強をしていた弟を無理矢理連れ戻し店で働かせている。
「あの二人、同時に赤くなって可愛かったわぁ」
それから数週間、そのネタでからかわれていた。
「今日はいないんだねぇ、」
と、誰かが言った。
反応したのは男の店主の方だった。
「今日は家族で集まっているそうですよ。弟の奥さんに、子供が産まれたとか」
店主はさぞ嬉しそうに微笑んだ。
「店主さんも行かなくて良いのかい？」
その問いかけに一瞬ぽかん、と反応した後ぼっと顔を赤らめた。
「からかわないでくださいよ！」
「それはすまない。さて、今回はこれくらいまで戻してもらおうかね」
此処は不思議な写真屋だ。
なんでも、昔の自分の姿に戻れる魔法屋なのだから。
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作者名：ノア | 作成日時：2017年8月17日 11時
