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「単刀直入に聞くが――アンタ、何でか今回の任務で招集されたとき、すこし変じゃなかったか? 何故だ?」

 そんなネロの問いに、エミリアは悲しげな笑みをたたえながら、右側の髪を耳にかけて言った。

「……まったく、上手く隠したつもりでしたが、貴方に隠し事はできないみたいですね。――それは、このアクロフ侯爵がある意味、私の兄の死に関わっているともいえるからです」
「そりゃどういう意味で?」

 エミリアの方を見ずにネロは質問を続けた。
 ああ、私が今顔を見られたくないのを察してか、とひそかにエミリアは彼に礼を言い、続けた。

「いいえ。ただの言いがかりと言ってしまえばそれまでです。私の兄は――身内が言うのもなんですが、優秀な騎士でした。入隊間もなく王太子近衛騎士団に所属できるほどに。――だから、あの日も着いていっていたんです。王・王太子のアクロフ侯爵領視察に。――あの年、侯爵領では川の氾濫による水害があったそうですね。それで、お二方の姿を見れば領民も元気が出るだろう、と侯爵からの嘆願があってのご視察だったのです。――ええ、恨むべくは何もありません。けれど……割り切れないものってあるじゃないですか」

 まあ、あと、単純にあの侯爵のいい評判を聞かないからというのもありますが。前半の湿っぽさを打ち消すための彼女なりの努力なのか、最後に軽い口調で付け足したが。やはり声は硬かった。
 ネロは相変わらずシトの方を向いたまま、言葉を続ける。

「……そりゃ大変だな。ああ、もう休んでいいぞ。あとは俺が何とかする」

 心中を慮ってくれたのか、とエミリアはまた親友に感謝した。ふ、と気が抜けて思わずその場に座り込む。疲れた。もう何も考えたくはない。思考がみるみるうちに溶けていく心地がした。

「『ありがとう』」

 優しい声で、親友は――彼は――ネロは言った。
 ……あれ、私は何を? まだ職務中なのになぜ私は地面に尻をつけている? まどろみから目覚めたような心地で、エミリアは一度目を見開いた。
 ――しかし、エミリアにもう立ち上がる力は残っていない。だんだんと、また視界がぼやけていく。彼女が最後に見たのは、ネロがシトの肩を支えて歩く姿だった。どこに、何故? そう問いかけようと試みたが、唇を一度開いて息を漏らしたきり、そこで彼女の意識は途切れたのだった。

そして、悪夢の続き(二)→←*



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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫清 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年9月23日 23時

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