そして、悪夢の続き(二) ページ45
保護した子供たちを乗せた馬車は、暗い森の中を走る。騎士の哨戒地域は完全に抜けた。
あとは、あとはこの森さえ抜ければ。
野盗や獣を警戒して先駆けをするユアンは、スピードはそのまま、後へ続く馬車を見る。しっかりと閉じられた幕のこちら側で手綱を取るルカと、ふと目が合った。そう、この森さえ抜ければ。
彼らは、自由だ。
そしてまた視線を進行方向へ戻した瞬間だった。徐々に明るくなる時間でも、森の中では葉が光を吸うので暗い。暗い、はずだったが。突如として激しい光が背後から走り、視界が白む。驚きのあまり目を見開き、耳がピン、と立ったのを感じた直後。
炸裂音がした。次いで、錯覚かどうかわからないが地面が揺れる。ざわ、と葉の揺らぐ音がした。
時間にして一秒にも満たない間。やっと色を取り戻した彼の視界にうつったのは、黒焦げになった、道のわきの針葉樹だったもの。
先に来る光。ついでの炸裂音。黒焦げになるもの。
――そのすべてに、ユアンは見覚えがあった。本能的に縮まった喉の奥から、限りなく低い唸り声がした。
知っている。俺はそのすべてを知って――いや、経験した。見た。聞いた。この身体で。
腰をかがめ、限界まで爪を引き出しながら、ゆっくりと、ゆっくりと彼は振り返る。彼の知らぬところで鈍く革が避ける音がした。丈夫な革でできた靴でさえも、彼の足の爪は引き破いていたのだった。――しかし、ある一点に意識を縫い留められているユアンは、気づかない。
そして、彼のその意識の先。紳士然とした初老の男がこちらに背後を向け――馬車に相対して立っていた。傍らには――「言霊」のクールダウン中なのか、痛みに耐えるように顔に手をやり、前傾姿勢になっている男。そしてその男の左手には、ところどころ赤茶色が目立つ、薄汚れた緑のシャツ。そして、それを着た、だらりと手足を宙に投げ出すキツネ耳の少年。――もっとも、その右耳があったであろう場所には何もなく、ただ血液が流れるばかりだが。
ユアンの方へは視線をやらず、その男は手綱を取るルカに向けて言う。
「まったく困るね、泥棒なんてされてしまっては」
それは紛れもなく、雷鳴で終わる彼の夢の続きだった。
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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