* ページ37
うん、と彼は大きくうなずいた。ばっちりだよ、さっきまでびっくりして動けなかったんだけど……照れくさそうに頭を掻きながら続ける。
「それで、その子は?」
きょとん、とした様子で彼は問う。
どうすべきか、とネロは逡巡した。この子は手元に置いておきたい、と思ったが、それをどう主張すれば怪しくないか。
場繋ぎに「ああ――」と笑顔を貼り付けながら言うと、「分かった!」とリュカがぽんと手をたたいた。
「侯爵家の子だね! なんだか逃げられちゃったみたいで、それを僕はさがしてたんだった。協力してくれてありがとう、ネロ君」
にこ、とまたリュカは笑った。そして、ネロの後ろへ隠れていた少女に向けて手を広げる。「怖くないよー」と、説得力のある声で呼びかけた。
行かなくていい、と手で制したつもりだったが――するり、と少女はその隙間を抜けて、リュカのもとへ歩み寄った。
「いい子だねえ。大丈夫だよ、悪いようにはしないから。――あ、ネロ君。ついでに一つ、お願い事していいかな?」
「……なんだ?」
目を細めてネロは聞いた。それをまねるように、リュカも目を細める。真っ白な睫毛が、白い肌に影を落とした。
「なんかね、逃げ遅れちゃった子がもう一人いるらしいんだ。……もし暇だったら、手伝ってくれないかな?」
「ああ。巡回ついでだ。探しといてやるよ」
そうネロが返すと、ありがとう、と満面の笑みでリュカは言った。そのまま、少女の手を握る。
君には渡さないよ。
どうしてか、ネロにはそう言っているように見えた。
が、これ以上深追いしてもいいことはあるまい。本能的に感じたネロは、くるりと踵を返して駆け出す。
一歩目が着地したところで耳鳴り、そのまま彼はスピードを上げる。八、九、十歩。静寂が訪れ、ちょうどネロが止まったところで「彼」の声が聞こえた。
「『――ロ。ネロ。とりあえずこっちは半分まで来た。そっちの進捗は?』」
「ああ。相変わらず屋敷の中は混乱中だ。ただ吹雪が不安定になってきた。そろそろ落ち着くかもしれない。それよりお前――」
意味が分からないというように、ネロは神の根元を引っ張りながら虚空、そして――
「行方不明が一人ってのはどういうことだ? ――二人いるはずだぞ、確認不足じゃねえのか?」
抵抗組織に属する弟に、彼は告いだ。いまも馬車を走らせる、ルカ・リエースに。
31人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ