夕焼け少女の物語り ページ13
「君が新入りね! あああひどいケガ。手当ては……ちゃんとしてもらってるのね、よかった。うんうん、とりあえず座って。ドルー君から話は聞いてるわ。すごく勇敢で、かっこいいお兄さんだって!」
満開の花のような笑顔で迎えた少女は、肩口で切りそろえられた白雪のような髪と、夕焼けのような不思議な瞳を持っていた。陽の入らない、冷たい部屋に似つかわしくない熱を放つほどに。くるくると回りながら楽しそうに話し、言葉の終わりとともに、止まる。そして、申し訳程度の、という言葉がぴったりな敷物をさし、座るよう促す。ほかの少年少女が薄汚れているのに対し、その少女は、一人宝石のように輝いていた。
そして、その薄汚れた少年少女たちも、何か違う。生命力みなぎる、生き生きとしているような――とにかく、先ほどまでのケントのように瞳が濁っている者はいなかった。皆、澄んだ瞳でケントたちの方を好奇半分、評定半分と言った様子で見る。
薄暗くじめじめした部屋に似合わぬ彼らのまぶしさに、ケントはふと、後ろめたさのようなものを感じたのか、ふと目を伏せる。視界に入るのは、包帯の巻かれた足。爪がところどころないものだから、うっかり歩き方を間違えれば痛む足。
「ほら、行こうよ兄ちゃん」
く、ドルーに手を引かれるまま、ケントはそのまま指された場所へ腰を下ろした。
「うーん、それじゃあ何の話をしようかしら。この前の続き? 赤いずきんの女の子の話だったかしら?」
そう言って、彼女は何かの物語を語り始める。周りの皆は興味津々に聞いているが、あくまで「続き」なので、赤い頭巾の女の子のおばあさんには大きな耳と口がある、と聞いてもケントにはさっぱりだった。
その赤い頭巾の女の子の話が終われば、次は桃から生まれた男の子の話。百年間眠り続けるお姫様の話。少女が生き生きと登場人物を演じ、お話の展開一つ一つに上がる子供たちの声。緊張していたケントも、その明るい雰囲気におされて少しずつ笑顔を取り戻していく。少しだけ、路地裏へ戻ったような気がするくらいに。
しかしその一方で、心の片隅に「いつ脱出の話が始まるのだろうか」とやきもきもしていた。なぜなら、この幸せは彼にとって泡のようなもの。侯爵さえ戻ってくればすぐに消えてしまう。――幸福を思い出してしまった以上、もう二度と苦しみの中へは戻りたくなかった。
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紫清(プロフ) - 嵩画さん» 温かいお言葉ありがとうございます! 読んで下さる方がいるということが何よりの励みになりますので、今後ともよろしくお願い致します。 (2020年3月16日 18時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
嵩画(プロフ) - 毎回更新される度にわくわくしながら読ませて頂いております…今後の展開が非常に楽しみです。お忙しい時期だとは思いますが、頑張って下さい。 (2020年3月16日 17時) (レス) id: 34e937d538 (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - ももせさん» ありがとうございます! 長くなりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです。 (2019年9月26日 0時) (レス) id: 85ba6a0490 (このIDを非表示/違反報告)
ももせ - 小説版すごく楽しみにしていました!今後の展開が気になる…更新楽しみにしてます!! (2019年9月23日 23時) (レス) id: a031215c05 (このIDを非表示/違反報告)
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