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「…あれ、上杉くん」
……あ。時すでに遅し。ぽろりと落ちた言葉。
睨むような、品定めするような、ギラギラとした目線が刺すように私に集中する。
「ひ、人違いでした!」
悲鳴のような声とともに、鞄を握りなおしたら、何故か校門の前に立っていた上杉くんを置いてきぼりにすることに申し訳なさを覚えつつも、駅へと逃げる。
なんでここに? も、もしかして、付き合ったから?付き合ったら一緒に学校から帰るみたいな? なにそれ!
走りながら、さっきの上杉くんをぼんやり思い出す。 どこを見てるかわからない、鋭利な瞳は周りとは違う、どこか近寄りがたいオーラが滲み出てた。
信号に引っかかり、足を止める。
くずれちゃった髪を手櫛で整えていると、息が上がって上下する肩が、がしっ、固定された。
「…立花」
「う、上杉くん」
すぐに捕まった。 同じ距離を走ってきたであろうはずなのに、全く息が上がってない上杉くんに尊敬の念を抱きつつ、そっと肩を掴む手を下ろさせた。
「ごめん、立花に嫌な思いをさせた」
「上杉くん私が目立ちたくないの知ってるよね」
「…あぁ、ほんとにごめん」
ごめんで済んだら警察はいらないよ!なんてジジくさいことを心の中で叫ぶ。
「私たちが付き合ってるのは皆んなに秘密なんだよ、約束だよね」
「…ん、だからごめんって」
あまり反省した素振りを見せない上杉くんは、信号が青になった途端に私の手を握って歩き出した。
「だぁかぁら!やめてよ、離して」
絶対ごめんって思ってないじゃん!
ぱっぱと歩く彼は駅に向かっていると思ったら、全然違うところで右折。
靡く短髪はきらきら光ってる。
どこ行くんだろ…。そんな疑問も口にするのも面倒、尚且つ引き返そうものなら絶対に無理だということがわかっていたので、大人しくついていくことにした。
彼が足を止めたのはショッピングモールの前だった。
「なんか食べよ」
「私、食べれるお金なんてほとんど持ってきてない」
「いいよ、俺が払う」
「え、いいよ、迷惑でしょ」
「俺が払いたいって言ってんの」
「…ありがとう」
満足気に笑った上杉くん。
あぁ、だから惚れちゃったんだ。
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作者名:あおぞら | 作成日時:2019年4月20日 17時