5話 ページ7
この人形は昔、Aが
荒れていた時期に
作ったものだった。
彼は、その当時の自分そっくりに作り、
いつか壊そうと決めていた。
けど、久しぶりに見ると、
壊すのがもったいないくらいに
素晴らしい出来栄えだ。
「……いっつーにでも、新しい服
作ってもらおうかな」
部屋を見回すと薄汚れた黒板が目についた。
黒板には色々な言葉が白いチョークで
書き殴られている。
それは昔ここで作詞していた頃のものだった。
「椿が落ちる時、
君は引き金を引いた……
また壊すのか、
僕の言葉は君に届かない、か……
我ながらこの頃は荒れてたんだなぁ」
一つ一つの言葉を辿るように、
小さく呟いてみる。
憎しみがこもった言葉が山ほどある。
しかし、どれも使うことのなかった
言葉たちだった。
どんなに憎んでいても歌うのは
ファンの前だから、って
すごく考えて作ってたもんね……僕。
だから、勝てたけど同時に、
壊れた瞬間でもあったんだ。
Aは人形をひと撫ですると、
部屋をあとにした。
誰も入れぬようにしっかりと鍵を閉めて。
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作者名:GISELe | 作者ホームページ:後日専用ホムペを作成予定
作成日時:2018年12月20日 16時