256話黒木side ページ10
上杉が緊張した目の端に、わずかに笑みを滲ませた。
もちろん俺も。
「だけど」
吉野が困ったように言った。
「本当のところは俺にもよくわからないんだ。俺と山本の2人であのババアのバッグを引ったくったのは本当だよ。バッグの中から金を売った売却代金確認書が出たんで、名前と住所、電話もわかった。この佐藤小梅は金を持ってるらしいから、うまくすればもっとおどしとれるんじゃないかってことになって、俺が電話をかけたんだ。道に落ちていたバッグを拾ったんでお届けしますって、そう言った。そしたら持ってきてくれって言うから、翌日山本が持って出かけた」
そう、ここまでは推理ができていた。
「それっきりさ。それっきり山本が帰ってこない。幾日経ってもだ。俺は焦って山本の携帯にかけたり、メールしたりした。ところが携帯はつながらないし、メールの返信もないんだ。俺は佐藤小梅に電話して聞いてみた。ところがもう帰ったって言うばかりだ。それが本当なら佐藤小梅の家は出ているのに、自宅に帰っていないってことになる。俺にも何の連絡もない。つまり山本はぷつっと姿を消しちまったんだ。俺は佐藤小梅が怪しいと思った。行方を知っているにちがいない。はっきり聞きだすつもりで何度も電話をかけたんだが、トボけやがった。それでちょっとおどしてやろうと考えて、火炎ビンを投げこんだんだよ。佐藤小梅はそれを警察に届けなかった。やましいところがあるから警察に行けないに違いない。絶対怪しい。今日こそ、本当のことを聞きだすつもりでここまで来たんだ」
「それでわかったよ」
俺は上杉と顔を見合わせて頷き合った。
「あんたが探している山本はこの家にいる。さっき俺達はこの家の中に誰かがいるらしいって話してたところだったんだ」
「生きてるのかっ?!」
そう言って吉野は顔を輝かせた。
「無事なんだな」
「多分ね」
吉野は突然涙声になった。
「よかった。もうずっと連絡が取れなかったから、俺もうダメかもしれないと思ってたんだけど」
そう言いながらはらはらっと涙を落とした。
「警察に捜索を頼みたかったんだけど、自分のやったこと考えたら行けなくって…」
多分こいつは、ケガをして曲がっちゃうまではいい奴だったんだろう。
78人がお気に入り
「オリジナル」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
きょっちー(プロフ) - ゆめさん» コメントありがとうございます!次はシンデレラです。私もKZのみんなと旅行したいものです。これからもお願いします! (2019年12月6日 7時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
ゆめ(プロフ) - 続きが気になります!更新頑張ってください! (2019年12月5日 19時) (レス) id: 21a29bd71d (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - RiRさん» 返信遅くなってすみません!繰り返し読んでいただいているようで、本当にありがとうございます!駄作者のことまで気にかけていただいて…。これからも応援してもらえたら嬉しいです。 (2019年12月3日 16時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
RiR - とっても素敵なお話をありがとうございますm(_ _)m気づいたら5周目ですww 応援しております。無理のない範囲で私に続きをお恵みください! (2019年12月1日 16時) (レス) id: 6882897af8 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - 三毛猫さん» ありがとうございます!ただ今、新企画も企画中ですので、そちらも楽しみにしていただければ嬉しいです。これからもよろしくお願いします! (2019年12月1日 10時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きょっちー | 作成日時:2019年11月30日 15時