23話 ページ8
「すぐ試験監督が飛んできて、一騒ぎだった。それっきりあの子は戻ってこなかったから、多分辞退したんだと思うな。それで全教科のテストが終わって俺が帰ろうと思ったら、椅子の間に鉛筆が1本残ってたんだ。俺それもらってきちまったんだけど」
次第にゆっくりとした口調になりながら若武君は、思い出すように空中の一点を見つめた。
「あの鉛筆確か、M・Tって彫ってあったと思ったな。それで俺、タ行の名字でマ行の名前なんだなって思ったんだもん。マサミとかミユキとかさ」
「それは、残念だったわね」
立花さんは少しきつく言った。
「あの子は梅津優子だからY・Uよ。誰か好きな人のイニシャルでも彫ってあったんじゃないの」
「おい、高柳真人だ…」
若武君が言うと同時に、立花さんも気づいたらしく両手で口を覆った。
「じゃあの子、自分の兄さんに恋してるんだ。可哀想!」
なぜそう飛ぶんだ…。
しかも可哀想というのは無いだろう。
「お前何考えてんだよっ!」
若武君も怒ったように叫んだ。
「まったく女ってのは上杉じゃないけど、よるとさわるとそんなことばっか考えてんだな。そうじゃないだろ。俺が言ってるのは、あの子が持ってたのは高柳真人の鉛筆だったのかもしれないってことだよ」
「だから何なの?」
まだ分からないらしい立花さんに、若武君は焦れったそうに言った。
「いいか。高柳真人は梅津家の人間に復.讐したいと思い、すでに有機ヒ素化合物を手に入れている。一方、梅津優子は受験中に倒れて辞退した。その手には、高柳真人の鉛筆があった」
立花さんは声を震わせて言った。
「じゃ、高柳真人は鉛筆に有機ヒ素化合物を塗って、梅津優子に渡したとか?で、受験中に彼女がそれを舐めちゃったとか…」
「来いっ!」
叫んで若武君は立花さんの手首を掴むと、身を翻してて走っていった。
※※※
「これじゃ無理だよ」
それが鉛筆を渡された小塚君の最初の答えだった。
「有機ヒ素化合物の分析には、いくつもの工程が必要なんだ。もっとたくさんの量がなくっちゃ。それに高柳真人が持っていた有機ヒ素化合物は粉末だった。あの粉を鉛筆にまぶしておいてもすぐ取れちゃうよ。傷をつけてその中に詰めておくってことならできるだろうけれど、この鉛筆にはそんな傷跡はない。あるのは歯形だけだ」
上杉君が目に、射すような光を浮かべて言った。
「水に溶いて染みこませたってことは?」
小塚くんは、首を横に振った。
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きょっちー(プロフ) - 天愛さん» ご指摘ありがとうございます!しかしそのシーンでは原作の上杉君もアーヤと言っており、何か意味があってそう呼んでいる可能性もあるため、このままでいかせていただきます。コメントやしっかり読んでくださっているのはとても嬉しかったです。これからもお願いします! (2020年8月14日 22時) (レス) id: f1276d6d57 (このIDを非表示/違反報告)
天愛 - 126話の上杉が立花じゃなくて、アーヤって言ってしまってます!確認してみてください(^_^) (2020年8月12日 16時) (レス) id: 74d4bab595 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - 麗奈さん» 読んでいただきありがとうございます!夢主ちゃんにとても注目していただき、嬉しいです。ゆっくりではありますが、これからも更新していきますので、これからもよろしくお願いします! (2019年10月14日 18時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
麗奈 - 私は、夢主のセリフがとても好きです。一歩引いた目線から考えたことがないので、さらに考えが深まりました。私は、黒木君推しなのでとても展開が楽しみです。これからも頑張って書いて下さい。 (2019年10月13日 20時) (レス) id: 2e81cd4f4c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きょっちー | 作成日時:2019年8月29日 18時