10話 ページ34
「私はこの家のお手伝いで、島崎といいます。和臣君の世話をするためにこちらに残ったのですが、急にこんなことになってつくづく残っていてよかったと思っています。お医者さんに行くにしても、一人で行くわけにはいかないし。では失礼いたします。ごゆっくりどうぞ」
島崎さんが出ていくと皆は大きく息をついた。
やはり知らない大人がいるというのは緊張するのだろう。
「さて、若武先生」
上杉がそう言いながら、ベッドの傍に椅子を引き寄せて腰かけた。
「一体いつからそんな悲惨な状態なのか、教えてもらえるかな」
若武君は悔しそうにに羽根枕を取りあげ、それを殴った。
「今朝起きて、トイレ行って鏡見たらこれだよ」
それは驚いただろう。
立花さんは声をあげて笑っている。
「ゴーシュダーニットって感じ」
そう言いながら若武君は肩をすくめた。
「お前、そのアメリカ気取りはやめろ」
上杉が不愉快そうに言った。
「FAXにもハローとか書いてたけどさ、安っぽい感じがする。ここは日本だしお前は日本人だ。日本語を愛して、きちんとした日本語を使え」
「そうだよ。きれいな日本語を話そう」
黒木君もそう言うので、若武君は仕方なさそうに目を伏せた。
「別にわざとしてるんじゃねーよ。自然に出てくるだけだ」
「それで医者はなんて言ったの」
小塚君が身をのり出して聞いた。
「診察の結果は?」
小塚君は社理のエキスパートで、人体も守備範囲だから気になるのだろう。
「アレルギーだって。ちきしょう」
不満たらたらの若武君を、小塚君は驚いたように見た。
「じゃ、そのくらいで済んでよかったじゃん。幸いだって思わないと。アレルギーってほんとはすごく恐いんだよ。一瞬でショックを起こして、死.ぬことだってあるんだから」
若武君は忌々しそうに、また羽根枕を殴った。
「わかってるって。俺豚に弱いんだ」
皆は顔を見合わせ、また笑いだした。
「何が可笑しいんだ」
若武君は立花さんを睨んだ。
「まったく女って、何でも笑えばいいと思ってんだからな」
立花さんがムッとした様子になると、黒木君が若武君の頭を撫でた。
「よしよし、ヤツ当たりするんじゃない。で、豚に弱いのに何で食っちまったんだ?」
若武君は手元にあった羽根枕を抱きしめた。
「食ってねーよ。医者に前の日に食べたものを書きだせって言われて、思い出して書いたんだけど豚はなかった。 気をつけてるし」
きっぱりと言いながら、遠くを見るような目つきになる。
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きょっちー(プロフ) - 天愛さん» ご指摘ありがとうございます!しかしそのシーンでは原作の上杉君もアーヤと言っており、何か意味があってそう呼んでいる可能性もあるため、このままでいかせていただきます。コメントやしっかり読んでくださっているのはとても嬉しかったです。これからもお願いします! (2020年8月14日 22時) (レス) id: f1276d6d57 (このIDを非表示/違反報告)
天愛 - 126話の上杉が立花じゃなくて、アーヤって言ってしまってます!確認してみてください(^_^) (2020年8月12日 16時) (レス) id: 74d4bab595 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - 麗奈さん» 読んでいただきありがとうございます!夢主ちゃんにとても注目していただき、嬉しいです。ゆっくりではありますが、これからも更新していきますので、これからもよろしくお願いします! (2019年10月14日 18時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
麗奈 - 私は、夢主のセリフがとても好きです。一歩引いた目線から考えたことがないので、さらに考えが深まりました。私は、黒木君推しなのでとても展開が楽しみです。これからも頑張って書いて下さい。 (2019年10月13日 20時) (レス) id: 2e81cd4f4c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きょっちー | 作成日時:2019年8月29日 18時