521話 ページ27
「走るのにじゃまになったら、捨てるしかないな」
「あーあ、気に入ってたのに」
『私も、母さんが作ってくれたものだから、ギリギリまでは持ってたいわね』
「また買ってもらうなりしろよ。何とか口実をつけてさ」
「運が良けりゃ、戻ってくるよ」
皆、半ばあきらめている。
「そろそろだな」
信号機を見ながら和臣が足を止め、ハイカットのバッシュの紐を結び直した。
「各自スタンバイ」
和典がメガネを外し、たたんで胸のポケットに入れる。
小塚くんも、はいていた靴の紐を締め直した。
皆の顔が引きしまっていく。
やがて貴和が、ふっと不敵な笑いを浮かべた。
「A、ビンゴ」
私たちが向かっている信号機の左側にある小道から、数人の影が現れるところだった。
「作戦、変更」
和臣が、緊張した声で言った。
「あいつら、じゃまになるから先に倒しとこう。オレ、黒木とAでやる。小塚は脇にどいて、巻きこまれないようにしとけよ」
そうしている間にも、信号との距離は縮まっていき、やがて和臣が叫んだ。
「GOッ!」
その声にいっぱいでは遠すぎるだろうから、力半分で財布を投げる。
皆の財布も、信号の明かりの中に浮かび上がる。
同時に、和臣の大声が響いた。
「くれてやる。浮けとれっ!」
投げるために振り替えって見えた影は、それぞれかなりのタッパがあった。
「金だ!」
誰かが叫び、影はいっせいに向きを変え、それを追っていく。
戦闘チームは、前方の群れに向かって走り寄る。
私は男の少し前で踏みこみ、その反動でみぞおちに一発。
1人倒れたことで、私たち1人に対して、3人で囲むフォーメーションになった。
跡をつけてきていたヤツらの数名が、タバコを片手に観戦を始めた。
貴和や和臣の方も気にしながら相手をしていると、観戦メンバーの中に見知った顔を見つけた。
驚愕の一瞬に拳が飛んできて、何とかそれを避ける。
「黒木っ!」
和臣の叫び声に貴和の方を見ると、顔から大量の血を流した貴和がいた。
その傍にいるヤツの手には、血のついた石が。
そこから、しばらくの記憶がない。
次の記憶の始まりは、和臣の怒鳴り声だった。
「戻ってこい!Aっ!」
その声に我に帰ると、絡んできたヤツらは消え、その場には私を囲むように和臣たちがいるだけだった。
『え、私…』
「覚えてないのか?」
ぼうっと和臣や貴和、小塚くんを見まわしていると、手にズキンと痛みが走った。
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華菜原 舞衣 - うわっ48分前っありがとうございます!楽しみにしてます。 (2020年5月27日 12時) (レス) id: 7aa09cf11b (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - 華菜原 舞衣さん» コメントありがとうございます!前世ユズリ…お仕事でやっていたんです。前世譲りの知識やテクはこれからも登場します。楽しみにしていてくださいね! (2020年5月27日 11時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - ひーとさん» コメントありがとうございます!これからは黒木くんの謎がさらに深まるのか、夢主ちゃんが過去を話す日は来るのか、ご注目ください。これからもよろしくお願いします! (2020年5月27日 11時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
華菜原 舞衣 - 夢主の前世ゆずりのテクって・・・前世でもやってたってこと!?オソルベシ・・・更新、楽しみにしてます。がんばってください。 (2020年5月27日 10時) (レス) id: 7aa09cf11b (このIDを非表示/違反報告)
ひーと - 黒木くんの過去が良い感じに仲を深めましたね〜。めっさキュンキュンします。此れからも楽しみにしています。更新大変だと思いますが、頑張ってください! (2020年5月26日 1時) (レス) id: c8f6957e50 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きょっちー | 作成日時:2020年5月20日 19時