421話 ページ25
ふり返ると、よく話し相手になってもらっていた、達樹さんがいた。
「もしかして、Aちゃん?」
『はい。お久しぶりです、達樹さん』
達樹さんは品のある涼しげな顔立ちで、この村の人気者なのだ。
「どうしたの、急に。お父さんとお茶するなら、ご一緒してもいいかな」
『ごめんなさい。もう行かないといけないんです』
「そっか。ちょっとでも話したかったんだけどな」
「それなら、バス停まで送ってあげたらどうだ?次にいつ会えるか、分からねぇだし」
安静さんの提案に、達樹さんの表情をうかがってから話す。
『達樹さんのご迷惑でないなら、私は構いませんよ』
「迷惑なんかじゃないよ。じゃ、行こう」
安静さんに挨拶をして、雑談をしながら2人で道を歩いた。
バス停でバスを待っていると、達樹さんが口をひらいた。
「本当に、久しぶりだね。あれから僕の気持ちは変わってないけど、Aちゃんは、どう?」
昔、長野を離れるとなったとき、私は達樹さんから告白されたのだ。
『そうですね。あの時私は、興味がないとツッぱねてしまいましたね。あの言い方はひどかったです。ごめんなさい』
達樹さんは優しく面倒見もいい人だ。
だからこそ…。
『今、改めてお返事するとすれば、ごめんなさい。気持ちは嬉しいのですが、私には愛する人がいます。それに、あなたならこんな女より、いつかもっと素敵な人が現れます。その人と、幸せになってください』
達樹さんはしばらく黙って、ふぅっとため息をついた。
「またフラれちゃったか。Aちゃんよりいい人なんて、時間がかかりそうだな」
『達樹さんならすぐですよ。変に大人びていた私を受け入れてくれた、数少ない優しい人ですから』
バスが着いたとき、達樹さんから差し出された手を、そっと握り返した。
『さようなら。またいつか、お会いしましょう』
「うん、さようなら。ありがとう、また会おうね」
バスに乗って別荘に向かった私は、達樹さんがつぶやいた言葉を知ることはなかった。
「あんな顔されちゃあ、諦めるしかないよね…。あんな優しい顔をするなんて、Aちゃんの愛する人は、どんな人なのかな…」
そして、その頬に流れた、一筋の涙も。
※※※
別荘の掃除が終わり、食材を冷蔵庫に詰めこむ。
出来るならみんなの負担を減らしたかったが、貴和にさんざんキッチンを使わないよう釘を刺されているので、大人しくみんなを待った。
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ライ(プロフ) - 「まず桜田の家で、東大の卒業生名簿を見た。浪人している可能性も考えて、前後の年代も見てみたけれど、望月孝太郎の名前はどこにもなかった。あの人は、東大を出てないね」 みんなは、うなずいた。 それは、保険証からも確認できている。の部分が重複してますよ! (2021年3月26日 14時) (レス) id: 65b1e4f8ab (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - manaさん» コメントありがとうございます!まだまだ拙いこの作品を気に入っていただけて嬉しいです。その応援を糧にこれからも頑張っていきます! (2020年3月30日 18時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
mana - 私この作品大好きです!ものすごく面白いです!更新楽しみに待ってますので頑張ってください!応援してます (2020年3月30日 18時) (レス) id: ecb2e4c19d (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - 透架さん» コメントありがとうございます!神作とまで言っていただけて本当に嬉しいです。これからも頑張っていくので、応援よろしくお願いします! (2020年3月21日 13時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
透架(プロフ) - 最近kzの小説が減ってきてて漁りまくってたら神作に出会いました!!すごく面白いです!更新頑張ってください!! (2020年3月21日 12時) (レス) id: 2be61dc08d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きょっちー | 作成日時:2020年3月20日 13時