警察官でした。9

419話 ページ23

若武くんが、眉根をよせる。

「その兄を、わざわざ再現して、しかもヒ.素化合物を飲ませるって、なんのためだ。もし埼玉の殺.人犯が望月なら、ヒ.素化合物を飲ませたあげくに撲.殺したってことになる。再現しておいて殺.そうとするのは、どうしてなんだろ」

みんなが頭をひねっていると、砂原くんが急に言った。

「オレ、行ってくるよ。ここで考えてても、もう手づまりっぽくね？モッチーの実家のあった南木曽、事件のあった場所に行って、当時のことを知っている人たちに話を聞いてくる。どんな家族だったのかとか。そうしたらきっと、わかることが出てくると思うんだ」

そう言いながら砂原くんは、重いものを吐きだすような息をついた。

「はっきりさせてぇよ」

砂原くんらしい解答だ。

「オレ、同行する」

片手をあげて名のり出たのは、和典だった。

「望月の心理に興味がある。成育環境をくわしく調べたい」

「オレも行く。黒木と桜田も来い。小塚とアーヤは残れ。連絡役だ」

うなずく私たちの前で、砂原くんは、ケッというような顔で横を向いた。

「いらねー」

「砂原、ツッぱるなよ」

貴和は砂原くんの肩を抱きよせ、ほほえみかけた。

「ほら、刑事なんかも、複数で行動するだろ。何かあった時、複数の方が便利だからさ。一緒に行こうぜ」

若武くんが2人の間に立ち、めいっぱいの威厳をひけらかしながら言った。

「砂原、おまえ、KZに守ってもらいたかったら、オレたちの方針に従えよ。オレたちは、多数決原理なんだ。意見が分かれた時には、決をとる。オレたちがついていった方がいいと思う者、挙手してくれ」

全員が、サッと手をあげた。

「わーったよ、ちきしょう」

『まあまあ。長野なら別荘があるから、そこを宿として貸すわ。宿代が浮くと思えばいいわよ』

砂原くんは、くやしそうにうなずいた。

「いつ行くんだ」

砂原くんに聞かれて、貴和が答えた。

「イヴは、再来週の月曜日だ。オレたちが動ける土曜日は、それまでにもう1回しかない」

「まず口実を見つけて、砂原を若武の家に移動させよう」

和典が言った。

「そして来週の土曜日に南木曽に行く。証拠を固めてくるんだ」

砂原くんを移動させる口実は、若武くんが考えだした。

なにしろ若武くんには、人を動かす才能があるから。

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