警察官でした。

32話 ページ34

授業が終わり先生が教室から出ていくと、若武君が早速立ち上がった。

いつものように両手をハーフパンツのポケットに突っ込みながら、皆の前に出てカッコつけて言う。

「では、マウンテン・バイク盗難事件についての諸君の報告を聞こう。まず小塚から」

言われて小塚君は、座ったままで皆を見回した。

「車は、ドイツ、バウアー社のミューラー。1990年型。カラーは、もちろん深緑だ」

「よし。立花、記録しろ。次、上杉と桜田。おまえらの報告は？」

上杉君は、ゆっくりと机の上に両肘をつき、指を組んでそこにアゴを乗せた。

慎重な表情で口を開く。

「ビバリーヒルズの26番5号の家の車が、緑の外車だそうだ。もし事件後、犯人が車を処分してしまっていても、小塚の言った車の写真を手に入れて近所の人に見せれば、多分一致するだろう。はっきりとした証拠だ」

若武君はのめりこむように上杉君を見据えた。

「じゃ、26番5号の家に住んでいる誰かが犯人ってわけだな」

「それはわからないさ」

上杉君が静かに答えた。

「犯人は別にいて、この家の人間は車を貸しただけかもしれない」

黒木君が口を挟んだ。

「それにしても、共犯だ。26番5号の家の連中、家族構成は？」

『両親に大学生の息子が一人。ビバリーヒルズのウワサでは、父親は今年の１月から仕事で大阪に転勤になって、母親がついていって、今いるのは息子だけらしいわ。そして、その息子は評判があまりよろしくないようよ』

黒木君が目を光らせた。

「怪しいな」

小塚君もうなずいた。

「ん。それって何でもできる環境だもんな」

若武君が大きく息を吸いこんで言った。

「よし、明日、ビバリーヒルズまで調べに行こう」

上杉君が少し溜息をついて、小塚君を見た。

「ダメ。俺と小塚は三谷がある」

秀明で三谷Cにいる子は、日曜日に三谷大塚進学塾という名門塾に通うことになっている。

「一日中じゃないだろ」

若武君は、食い下がった。

どうしても二人を連れていきたいようだ。

「何時に帰ってこられるんだ？お前たちに合わせるからさ。その時間に集合して行こう。場所も、お前たちが選んでいいよ」

こうまで言われては上杉君も仕方なかったらしく、諦めたように答えた。

「じゃ、3時に駅で」

言いながら、眼鏡の向こうの目をふっと煌めかせる。

「若武、調べるって具体的に何するんだよ」

若武君は左手のひらにパチンと右手の拳を叩きつけた。

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