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俺が戸惑っている間にも周りは次々と車を降りていき、ついには隊長に「萩原!早くしろ!」と怒鳴られる。ダメだ、こんな時こそ冷静で居なければ。きっと先に到着していた機動隊が住民に避難を促してくれているはずだ。そうに、違いない。
必死にそう言い聞かせ、後ろ髪引かれる思いで爆弾のある階___Aちゃんの住む階の一つ上に向かう。今のところ、誰も居ない。もう避難は済んだのか?
「状況は」
「はっ。現在は住民の避難も完了し、建物には我々機動隊しか居りません」
先に爆弾を発見していた機動隊員達は隊長に対して素早く敬礼し、状況報告を済ませる。普段の俺ならば、彼の報告に手放しで喜んでいた。だけど今は、何か、嫌な予感がする。
そんな胸中を渦巻く不安に駆られ、今すぐにでも彼女にメールをしたい気持ちがふつふつと湧き上がる。その感情を溢れるすんでのところで抑えれば、代わりに奥歯がギリッと悲鳴を上げた。
……ふざけるな、萩原研二。これは遊びでも訓練でもない。一歩間違えれば死に至る。職務に私情を挟むな。避難なら済ませたと仲間が言っているんだ。お前はお前の仕事を全うしろ。
お前の行動一つが、この場に居る人間を危険に晒しかねないんだぞ。
「萩原!」
「っ、はい!」
「この爆弾の解体はお前に任せる。出来るな?」
「はい!」
隊長からの指名で俺は爆弾の前に腰を下ろし、細かい作業には向かない手袋を取り外した。
すぐ隣にはずらりと並んだ解体道具。陣平ちゃんの所有物より種類も性能も劣るが、これくらいの爆弾相手なら問題ないはず。そこから一本のドライバーを掴み取り、慎重に目の前の爆弾に向き合う。
これで、これで良いんだ。わざわざ仲間の報告を疑うような真似をしなくとも、あの子は大丈夫。あの子は、大丈夫……。
「おい萩原、どうした。チンタラしている暇はないぞ」
「……すみません、隊長。ここの住民は全員避難を完了したと、確かにそう、報告を受けましたよね」
「あぁ。それはお前も聞いたはずだが」
「______部屋の中まで、」
「は?」
「部屋の中まで、ちゃんと、確認してくれましたか」
俺の問いに、隊長は一瞬眉を顰めたものの、すぐに避難状況を報告してきた部下に話を聞き始めた。
隊長のこういうところには本当に尊敬する。例え相手が新人だろうがベテランだろうが、彼は必ず実力を見てから役割を与え、頭ごなしに否定しない。
隊長が確認を取っている間に、俺も出来るところまで解体を進める。……かなり複雑な爆弾だな、これ。
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ひなみ - 読み終わった後、偶然、コナンのEDにもなった「ジューンブライド〜あなたしか見えない〜」を聴いたんですが、この曲の歌詞が妙にこの作品に合っている気がして、またこの作品を思い出して泣いてしまいました。心に残る素敵な作品をありがとうございました。 (2022年10月16日 17時) (レス) id: ba9ab70415 (このIDを非表示/違反報告)
ひなみ - 読み終わった今も涙が止まりません…。まず二人が助からないと分かったところで大号泣、夢主が既に亡くなっていたと分かったところで大号泣、最後の写真で大号泣…。ずっとギャグだったから、こんな結末全く予測していませんでした…。 (2022年10月16日 15時) (レス) @page49 id: ba9ab70415 (このIDを非表示/違反報告)
(名前)(プロフ) - 最後のイラストで涙が止まらなくなりました😭 (2022年6月23日 22時) (レス) id: 1cfa02e0c5 (このIDを非表示/違反報告)
ルリ(プロフ) - まさかの結末で涙が止まらない、、、 (2022年6月14日 19時) (レス) @page48 id: 2eb7e133f7 (このIDを非表示/違反報告)
milk - なにこれ、悲し過ぎない!もうtシャツの袖がびしょ濡れになりました (2022年5月26日 0時) (レス) id: b9832e8e21 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:無糖 | 作成日時:2021年7月25日 15時