彼女に紹介されたお兄さんが同期だった場合の対処法【萩原研二】

□ ページ40

．






もしもここに居たのが陣平ちゃんだったなら、こんな爆弾ちゃっちゃと解体して、彼女の元に走っていたのだろうか。お前は職務も彼女も大事にする奴だもんな。目に浮かぶ。

だけど俺はさ、そこまで器用じゃねぇから。お前みたいに両方を選ぶ選択肢なんか最初から存在しなくて、歯を食いしばりながら、どちらかを選ぶという選択しか出来ない。


＿＿＿例えそれが、無責任だと罵られても。







「流石に全ての部屋の確認は出来ていないらしい。それが一体どうしたんだ」







隊長の言葉に、俺は深く息を吸い込んだ。

……もう何年も一緒に居るんだ。お兄さんには劣るにしろ、Aちゃんのことなら他の誰よりも知っている自信がある。





＿＿＿あの子は自分の部屋に居る時、補聴器を外すことが多い。


そんな状態で、部屋の外で起こっていることに気づけるのか。


ましてや、しっかりと防音対策のされている、マンションの一室で。


外で叫んでいる隊員の声が聞こえるのか。





その答えは＿＿＿。







「隊長、すみません。この爆弾は、俺には解体できません」

「なんだと？」

「俺のことはどうか、クビにしてくださって構いません。……本当に、すみません」







防護服の窓から眉を吊り上げる隊長の表情が窺える。そんな隊長の前で、深々と頭を下げる。

例えそれが、無責任だと罵られても。
……俺が選ぶのは、Aちゃんだ。


やがて止まることを知らない爆弾を前に、隊長が痺れを切らす。「もう良い、お前は下がれ」と。期待を裏切られたという感情が色濃く滲む声に唇を噛み締め、俺はもう一度謝罪を零し、重たい防護服を脱がせてもらって非常階段を目指した。
俺はもう爆弾を解除しないのだ。防護服を着ている意味がない。


爆弾が起動するタイムリミットは、あと数分。
それまでに解体が済めばいいが、あの爆弾は相当複雑だ。せめて彼女を三階下まで連れていくことが出来れば、少しは安心できる。







「ッ、Aちゃん！！まだ中に居んの？！俺の音に気づいたら、返事して！！」







彼女の部屋に辿り着き、固く閉ざされた扉をドンドンと叩く。同時に、インターホンも連打する。


……頼む、頼む、頼む。お願いだAちゃん、居るなら出てくれ。俺の音に気づいてくれ。
ちゃんと聞こえなくたって、音の色で、俺だって分かるんでしょ。だったら、気づいて、くれよ。それで、こんな時まで君の元に走ってしまった俺をどうか、最低だって、叱ってくれよ。







「お願い、Aちゃん……」







＿＿＿ガチャッ







．

□→←□

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す