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「降谷さんはまだ帰んないの?」






入学式が終わり、午前の時点でそのまま下校となった教室はすぐに閑散とする。
トントン、とゆっくり今日の配布物を揃えている降谷さんに声をかけるが、完全に忘れてた。声届かないんだったわ。

ブレザーを羽織った肩を軽く叩けば、彼女はすぐにパッと顔をあげて、ニコニコと微笑んでくれる。たった二、三時間程度の関係だけど、話してみると案外近寄り難い雰囲気はない。寧ろ小動物っぽくて可愛い。撫でたくなる可愛さ。






「降谷さんは、まだ、帰ら、ないの?」






大体一単語ずつ区切りながら気持ち大きめの声で言葉を並べる。
こういう時に手話って便利なんだろうな。






「【バスまでまだ時間があるから、待たせてもらってるんです】」






サラサラと女の子らしい綺麗な字がスケッチブックに書き込まれ、その一面が俺のほうへ向けられる。
一連の動作を見ていて思うけど、書いたものを見せるときの仕草が恥じらう子供みたいで非常に加護欲が湧く。スケッチブックで口元を隠す辺りが特に。やっぱり小動物でしょこの子。


彼女の返答にそっかと笑って頷く。声の方は聞こえていないようだけど意味は伝わったらしい。心配してくれてありがとうございます、と書かれた。心配……なのかな、これ。

そこまで優しい人間でもないと思うけどね、俺は。今だって、彼女の事情を知ったところで「じゃあバスが来るまで一緒に居てあげるよ」と言う気は全くない。何より親友も待たせてるし。







「おい、ハギ。何してんださっさと帰んぞ」

「おーわり。今行くとこだったんだけど」







丁度今教室に顔を出した彼こそ、俺の親友陣平ちゃんだ。なんだかんだ幼少期からの腐れ縁。切っても切れないというか、そもそも切る気がない。

陣平ちゃんは教室内に他の気配を感じ取ると、俺の背後を覗き込むようにして教室に入ってきた。
そして降谷さんの正体を確認するなり、俺に向けて立てられる小指。女子が居たら真っ先に関係を疑うのどうかと思う。
まぁ、今までの行いの結果と言われればそれまでなのだが。耳の痛い話だ。







「アンタ名前は?」

「?」







彼女の耳が聞こえないことなど隣のクラスの彼が知っているわけもなく。そこに同級が居れば当たり前に聞くことを聞いて、やはりその先が続かない。陣平ちゃんも珍しく困惑気味だ。







「彼女、耳聞こえないの」

「あぁ、なるほどな」







すると、俺と違ってなんだかんだ優しい陣平ちゃんは、すぐに彼女との距離を詰めてゆっくりと話し始めた。








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ひなみ - 読み終わった後、偶然、コナンのEDにもなった「ジューンブライド〜あなたしか見えない〜」を聴いたんですが、この曲の歌詞が妙にこの作品に合っている気がして、またこの作品を思い出して泣いてしまいました。心に残る素敵な作品をありがとうございました。 (2022年10月16日 17時) (レス) id: ba9ab70415 (このIDを非表示/違反報告)
ひなみ - 読み終わった今も涙が止まりません…。まず二人が助からないと分かったところで大号泣、夢主が既に亡くなっていたと分かったところで大号泣、最後の写真で大号泣…。ずっとギャグだったから、こんな結末全く予測していませんでした…。 (2022年10月16日 15時) (レス) @page49 id: ba9ab70415 (このIDを非表示/違反報告)
(名前)(プロフ) - 最後のイラストで涙が止まらなくなりました😭 (2022年6月23日 22時) (レス) id: 1cfa02e0c5 (このIDを非表示/違反報告)
ルリ(プロフ) - まさかの結末で涙が止まらない、、、 (2022年6月14日 19時) (レス) @page48 id: 2eb7e133f7 (このIDを非表示/違反報告)
milk - なにこれ、悲し過ぎない!もうtシャツの袖がびしょ濡れになりました (2022年5月26日 0時) (レス) id: b9832e8e21 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:無糖 | 作成日時:2021年7月25日 15時

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