意外性に長ける ページ11
放浪者side
ちぇ、と一言言って僕に手を振ったA。
くそ、馬鹿だな、そんな顔してる奴を放って置ける訳がないだろ。
掴みどころが無くて、でもどこか魅力的で、包容力があって。
そんな、余裕ばかりを見せるこいつが、こんな顔をするなんて。
Aの顔が、過去の自分と重なってしまって。
何とも言えない感情が交差して、僕の思考回路を蝕む。
そんな、寂しそうな顔をするなよ。
「…今日の君はいつにも増して変だ、何かあったのか」
いつまでもそんなしみったれた顔をしていられると困るからね。
そう付け足して、Aを見つめる。
『…ふは、…素直じゃん』
少し嬉しそうに、そしてまだ寂しさの残る顔で僕を見つめ返していた。
・
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Aside
『…放浪者』
「なんだい?」
『放浪者ぁ』
「…なに?」
『放浪者くん』
「ああもうしつこい!何なんだ!」
仏の顔は三度まで、というのは嘘だった。
三回目でもう堪忍袋が切れたようだ。
まあただ単に放浪者の心が狭いだけなのかもしれないけど。
……心配してくれてるみたいだし、そんな考えは良そう。
『…ちょっと、頭が追いつかなくて』
知らなかった、いや、忘れていた情報が全て一気に流れ込んできたんだ。
すこしの恐怖を抱いたのと同時に、誰かに向けた、罪悪感を感じていた。
「君の頭が追いつかないのなんて、なにに対してもだろ」
なんていつもみたいなことを言ってくる。
…変に気を遣ってこないところ、俺は好きだけどな。
ああ、もう少し、居てくれないかな。
いやいや、やめておこう。
『…今日、は、疲れたんだ、』
縋るように放浪者の肩に頭をうずめる。
ふんわりと優しい香りが鼻をくすぐって、まぶたを閉じる。
拒絶されるかと思ったけど、そんなことはなく、
ただ静かに頭を撫でた放浪者。
…撫でられて喜ぶような歳ではないが、生憎、今はそれを気にしていられる心の余裕も体力もない。
ただ、何も言わずにいる放浪者に身を任せた。
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るな - この作品気に入っていたのですが…もう更新はしないのでしょうか。いつでも待ってます (2月16日 20時) (レス) id: b6f4e9157d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:河井 | 作成日時:2023年6月16日 2時