IX ページ9
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「あの絵」
「ん、……?」
三つあったマフィンをぺろりと平らげ、優雅にコーヒーを啜っていた彼が、突如立て掛けているままの海を視線で差す。「あれはどこの景色だ」と。首を傾げながら「どこでもないわ」と答えたが、何か腑に落ちないようだった。
「見覚えがある」
「……。……そりゃあ、貴方。海なんて見飽きるほど知っているでしょう」
海賊。海を根城に生きる人。──
それでも間違いなく、彼はあの広大な世界から逃れられない者の一人なのだ。
「いつか、どこかで見た風景。それ以外には何も無いわよ」
「……そうか」
「……なぁに。気になることでもあった?」
「……」
興味本位で問うてみたものの、やはり帰ってくるのは無言だけだ。まあ大した事でもないのだろう、と早々に結論付けて残りのココアを流し込む。濃い甘さが舌を焼く。
カップを置いた瞬間立ち上がった彼に、もう行ってしまうのか、と少し脱力した。そうしている間にも彼はコートを肩にかけ、出口まで黙って歩いていく。楽しい時間が過ぎ去るのはいつだってあっという間で、終わりを告げるこの時が一等淋しい。
見送るため扉の前まで着いて行けば、彼が
「──明日の朝、迎えに来る。着替えて待ってろ」
「お出掛け？」
「ああ。
頷いた私にもう一度啄むようなキスを落として、彼は消えた。わざわざ出口まで来たと言うのに砂になって帰るなんて、相変わらずというか、なんというか。
彼の用に付き添うのは久しぶりだ。お出掛けとは言ったものの、実際は闇深そうな会話が行われるパーティーであったり海軍絡みの厄介事であったりと、そう可愛らしいものでもない。そこそこ顔が整っている私はそういう場合、彼のお飾りの連れや女避けとしての役目を果たす。
……まあ名目はどうであれ、愛しい人の隣に立つことができるというのは嬉しいものなので。
大きなクローゼットの扉を開けて、どうおめかしして行こうかと袖を捲った。
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おはよ - めっちゃ面白い作品でした！最高です (2023年3月20日 22時) (
レス) @page44 id: d4f6705fb9 (このIDを非表示/違反報告)
白鯨(プロフ) - みうしさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます! 私としましてもまだ書きたいものが幾つかありますので、またぼちぼち気まぐれに更新しようかと思います。何卒気長にお待ちください。 (2022年11月13日 23時) (レス) @page32 id: 7a595430fd (このIDを非表示/違反報告)
みうし(プロフ) - 大好きな作品が終わってしまって寂しい〜〜泣泣と思っていたら番外編も書いてくださるんですか😭😭是非読みたいです……！！ (2022年11月12日 8時) (レス) id: f1ae5cae79 (このIDを非表示/違反報告)
愛ってなんや？ - 面白いです！！続き待機してます！！ (2022年10月23日 14時) (レス) @page19 id: 027cc676f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白鯨 | 作成日時：2022年5月25日 10時
