傾国のひとりごと (ページ15)

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媚薬　壱ページ15

元々いた四人の侍女たちはたいへん働き者で、翡翠宮はほぼ四人で回っていた。新参者のAの仕事は、ご飯を食べることくらいしかない。

一番嫌な仕事を押し付けたことに罪悪感を持っているのか、侍女たちは手伝おうとするのを「いいのいいの」と断って、Aを部屋に押し込めていた。

(落ち着かない)

小部屋に押し込まれて、呼ばれるのは二回の食事と昼の茶会、そして宮に訪れた帝の滋養強壮料理を食べることくらいである。

毒見に加えて、食事も以前より豪華になった。茶会には甘い菓子があり、余ればAにも配られる。
蟻のように働くことがなくなったので、栄養はそのまま肉になって体の一部につく。

(家畜にでもなった気分だわ)

可哀そうな使い捨ての駒に三人の侍女たちは同情していた。
お腹いっぱいでも粥はおかわりをつがれ、菜の具は他の者より一つ多い。

(妓楼の小姐たちを思い出す)

ちなみにAは気づいていないようであるが、可愛がられる理由はあったりする。

Aの左腕には無数の傷がある。
切り傷、刺し傷、火傷、或いは針のようなものが刺された痕。
腕には包帯が巻かれ、たまに白を通り越して青白い顔で往来で倒れることもあった。
無口なのも彼女が今まで受けていた仕打ちの結果だと、皆が涙を飲んだ。

瞳の色が珍しいために気味悪がられたとか、その程度ならまだ分かる。だが彼女らは、「もしや紫は殿上人しか身につけられない色だからと罪になったのでは」とか、年頃の娘らしくとんでもないことを想像してくれる。

もちろん、真実は違う。

全部、A本人がやったことだ。

傷薬や化膿止めの効能を調べ、毒を少しずつ飲み耐性をつけ、時には自ら毒蛇に噛まれにいくこともあった。たまに量を間違えて、倒れることもあった。
ゆえに傷は利き腕でない左腕のみに集中している。

そんなAの行動を一番迷惑がっていたのは、Aを妓女として育てていた婆だ。
妓女に傷があっては価値が落ちる。幼い頃からの妓女教育を無駄にしたくない、と婆も必死だった。

もっとも、Aが成長するにつれて諦めの気持ちが強くなり、何も言わなくなったようであるが。

などというわけで、Aは頻繁な暴行の挙句、後宮に売りとばされ、使い捨ての毒見にさせられた哀れな娘と皆に思われているのだ。

そんなこととはつゆ知らず、

(このままではいつか豚になる)

そんなことを考えるようになった頃、Aの前に嫌な訪問者が現れるのであった。