開演ブザーは永遠に（３） (ページ31)

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「……もう時間だ。行きなさい。さっきも言ったとおり、ウイルスの特効薬でも見つからない限りこの状況は変わらない」

　蛍ちゃんが肩に受けた銃弾は摘出されたものの、弾にはウイルスが入っていたらしい。それも特殊なウイルスだとかで、今の学園には特効薬はない。学園が特効薬を作るにせよ、Ｚから奪うにせよ、蛍ちゃんはそれまでずっと苦しいままだ。
「でも」と蜜柑ちゃんが言いかけるが、結局今井先輩にたしなめられて、部屋から出る。
　蛍ちゃんが治療を受けている部屋には廊下に面する形で大きなガラスが嵌め込まれてあり、外からでも様子が見れるようになっていた。さっき呼ばれていった鳴海先生も戻ってこないし、教室に戻る気にもなれず、みんなで廊下に留まっていると耳慣れた声が響いた。

「あー、いたいたチビちゃん」
「あ、佐倉さーん」

　殿先輩と、地図を片手に持ったのだっちが一緒に廊下の向こうから歩いてくる。今回の事件で初等部の先生はみんな忙しくて、能力別クラスの担任であるのだっちが蜜柑ちゃんのお迎えを頼まれたらしい。

「……まったく、チビのくせにえらいもんに巻き込まれやがって。……大変だったな」

　殿先輩が蜜柑ちゃんを抱えあげ、コツンとおでこを合わせる。さっきからずっと強張っていた蜜柑ちゃんの顔がわずかに緩み、そのままぎゅっと先輩に抱きつく。
　私も先輩にすり寄ってみたら頭を撫でてくれた。大きな手が私に触れて、自然と息をつく。あの緊急サイレンが鳴ってからずっと不安で苦しかった心がいくらか落ちついた気がした。
　地図、それもなぜか日本地図を持ったまま私たちの様子を眺めていたのだっちが、「あ、そうでした」と棗君に向きなおる。

「日向君。本部にて危険能力系参加の緊急会議があるとのことで……君にただちに本部へ向かうよう、ことづかりました」

　のだっちの伝言に空気が冷える。棗君を見ても驚いた様子はなく、ただ不機嫌そうなだけだった。

「では、殿内君。僕は彼を本部まで送り届けますので、佐倉さんのほうをよろしくお願いします」
「あー、わかりました」

「大変だけど」と、殿先輩が気遣わしげに棗君に声をかけたというのに、棗君は先輩の足をぎゅむっと踏んづけてから歩いていった。