【歌い手】僕ら、君の狼。-最後の１匹-

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ばたばたと、複数の足音。

振り向きたくない。



「…っ」



それでも、己の弱さには勝てなくて。

久しぶりに耳にするその声に、

俺の見栄っ張りはあっけなく崩れた。



「…お前たち」



ゆっくり顔を向ければ、真剣な皆の顔。

９６、天月、歌詞太郎、そらるさん、るす―――…

そして、真冬。


真冬を先頭に皆が息を切らして、

片手に荷物を抱えた俺を見つめる。



「…黒白炉ちゃん、本当に行っちゃうの」



一番初めに口を開いたのは、天月だった。



「…ああ」
「どうしても？」
「…天月、ありがとな。色々、助けてくれて」



あえて、その質問には答えなかった。

本当に引き止められたら、立ち止まってしまう気がして。



「…黒白炉、またコラボしようね」



しんみりした空気を、るすがあのトーンで打ち破った。

ちょっと呆気にとられたけど…まあ、るすらしい。



「勿論だ」
「MIX、たまには俺にもやらせろよ」
「そうだな」



そらるさんもるすのトーンに乗っかって、

やんわりと微笑んだ。



「僕ともコラボしてね！？結局僕だけできずじまいなんだからさ！！」
「ちょ、それ言ったら私だってしてないよ！？」
「二人とも、やろうな」



歌詞太郎と９６がいつものテンションで絡んで、

ああいつもと変わらないんだって、笑みが漏れる。


皆と言葉を交わす間、真冬は何も言わなかった。

ただ、俺を見つめているだけ。



「…向こうでも、黒白炉ちゃんらしくね」
「黒白炉ちゃんのこと、大好きなんだからね！？」
「歌詞、それはちょっと問題発言」
「うん、僕も好き」
「…お前らなあ」



こんな時間が、いつまでも続けばいいな。

…それを終わりにするのは、俺なのにな。

我儘だ。



「…じゃあ、そろそろ行くな」



皆に背を向けて、搭乗ゲートに向かった。

さあ、新しい世界へ――――…



「―――――A！」
「…っ」



背中に突き刺さる、真冬の声。

さっきまで何も言わなかったのに、

この期に及んで何を言うんだ。



「――――――またね！！」



真冬は、『待ってる』とは言わなかった。

『ずっと好きだ』とも、『忘れない』とも、

言わなかった。

でも。



「…またな」



もう、振り返らない。

真冬の言葉で背中を押された気がして、

今度こそ搭乗ゲートをくぐった―――――…

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