五十六話 ページ16
「いやあ、久しぶりに見たなあ。いつぶりだ？ お前らが小学生の頃だから…」
「東郷さん。早く始めちゃいましょうよ、今日は忙しいんでしょう？」
話し始める東郷さんを遮り、俺は口を開いてにこやかにそう言った。
「ああ、そうだな」東郷さんはやけに機嫌が良さそうだ。
俺は小首を傾げ、こちらに近寄ってくる東郷さんを見据えた。
――――ゴッ！
頬を急に殴られ、路地裏の地面に投げ出された。
「がッ！！」
茶色いスーツに身を包まれた東郷さんは、俺の上に馬乗りになると、胸ぐらを掴み、嫌な笑みを浮かべた。
「まさか、大喧嘩した兄と会うなんて随分運が悪いな。
それとも、兄たちが図ったとか？」
「そんな訳ないじゃないですか」
俺がそう言った途端、まるで口答えは許さないと言われたように拳が顔に振り被られた。
それから暫く傷が目立たないようなところを狙って殴られる。
口内が切れて鉄の味が広がった。それを吐く暇もない。
「実はさ、もうサツが俺を嗅ぎつけてるんだよ。だからこの町を出る。
最後だから、今日はもうちょっと発散させてくれよ」
頷くことも出来ない俺は、ただ痛みを感じながら空を仰いでいた。
×××
事の始まりは本当にくだらないことだった気がする。
その日、俺は一人で商店街を歩いていた。
唐突に、突然かけられた声。俺はゆっくりと振り返った。
「あれ、もしかして…。
――――おそ松？」
そこにいたのは、俺が幼い頃世話になった人、東郷さんがいた。
よく、覚えてる。あの人を、おそ松を包丁で脅し、土管に押し込んだ張本人。
俺は溢れ出る苛立ちの感情を押し込んで、口元に笑顔を浮かべた。
「やだなあ！！ 俺はAですよ！ 東郷さんってば」
そうおちゃらけた声色で続ける。
「あれ？ ああ、ほんとだ。久し振りだなあ」
「ええ、本当ですね」
口元に浮かべた笑みをそのままに、俺は次の言葉を待った。
東郷さんは口角を斜め上に上げて、何かを企んだような顔をした。
「ところでさ、A。
――――ちょっと付き合えよ」
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れもん - 東郷さんについてこの後兄弟に話したのかとか一松を実は守っていたということに対して兄弟がどのような態度で黒斗に接するのかなど気になる部分は多々あります…書いて欲しかった…。主人公が理不尽な目にあって六つ子が悪役に見えなくもないですが良い作品でした。 (2022年1月21日 22時) (
レス) @page33 id: bc2584c695 (このIDを非表示/違反報告)
神野 赤月 - とても泣いてしまいました。いい作品ですね！ (2017年8月24日 7時) (レス) id: 1f93e928e5 (このIDを非表示/違反報告)
リュウア(プロフ) - 完結おめでとうございます。占いツクールの小説で物凄く久しぶりに泣きました。作者様にこのコメントが読んでいただけるか分かりませんが本当に面白く、何かを考えさせられる小説でした。とっても面白かったです。 (2017年5月28日 21時) (レス) id: ef6262a277 (このIDを非表示/違反報告)
暁(プロフ) - 何か主人公が理不尽すぎる気がします (2017年3月30日 21時) (レス) id: be64f1ec17 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - いの近さん» コメントありがとうございます!私も、読者さんと同じ気持ちです!素敵と呼ばせてもらえる主人公と松野兄弟が書けて良かったです!最後までありがとうございました。 (2017年1月22日 11時) (レス) id: 095eb051dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ルアルア | 作成日時：2016年10月23日 18時
