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五十五話 ページ15

――――まずい。

 
 まずいまずいまずいまずい。


 身体ががくがく震えて、そのせいで歯の奥がカチカチ鳴る。


 両腕を抱くけれど、まるで極寒の地に置いて行かれたみたいに震えが収まらなくて、汗が頬を伝った。


 ――――怖い。怖い怖い怖い。


 暗い暗い闇の中。出口のないあの場所に閉じ込められた恐怖が、襲ってくる。



「あっ……、は」



 胸の動悸が激しくて、呼吸がままならない。



「おい、おそ松! お前、どうしたんだ?」



 俺の様子を察したカラ松が駆け寄って来る。


 背中を摩られても、震えが止まらない。…ああ、本当にどうしよう。



「おそ松、大丈夫、大丈夫だから。だから落ち着け」



 こういうとき、カラ松の優しさは身に染みるように感じる。


 おかげでやっと震えが収まって来た。俺は小さく礼を言って、玄関に視線を向けた。


 ついさっき、玄関にいたあの人と共に出て行ったA。


 なんだってAはあの人の後を着いていったんだ。



「あ……、か、カラ松…ど、どうしよ………」



「え、おいおそ松、お前どうしたんだ?もしかして、Aか?」



「違う、いや、そうだけど、でも、あ…」



 たどたどしい口ぶりに、カラ松は首を捻った。



「――――……何、どうしたの」



 低い声に、俺とカラ松は驚いて身動きが取れなくなった。


 隣でカラ松が振り返り、「A、何でここに」と言った。俺はまだ振り返れない。


 …後ろにいるかもしれない恐怖の対象に、俺は吐き気をもよおした。



「……俺、出掛けてくるから」



 そう言ったAは、踵を返して多分玄関に戻った。



「どう、A。忘れ物は見つかった?」



「ええありましたよ。すみません、手間かけさせちゃって」



「ひっ、あ…」



 小さく洩らした声。カラ松が「大丈夫だ」と俺に呟く。



「じゃあな、兄貴共」



 乱暴に吐き捨てたAは、玄関の扉を大きい音を立てて閉めて出て行った。


 がくがく震えた肩をカラ松が抑える。


 ………ああ、本当にどうしよう。こんなとこ弟に見せたくないのに。



「ごめん、ごめんカラ松。もう大丈夫だから。だから、だから――――」



 そこで、俺ははっとした。


 ――――A。



 

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設定タグ:おそ松さん , 喧嘩松 , 男主   
作品ジャンル:アニメ
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れもん - 東郷さんについてこの後兄弟に話したのかとか一松を実は守っていたということに対して兄弟がどのような態度で黒斗に接するのかなど気になる部分は多々あります…書いて欲しかった…。主人公が理不尽な目にあって六つ子が悪役に見えなくもないですが良い作品でした。 (2022年1月21日 22時) (レス) @page33 id: bc2584c695 (このIDを非表示/違反報告)
神野 赤月 - とても泣いてしまいました。いい作品ですね! (2017年8月24日 7時) (レス) id: 1f93e928e5 (このIDを非表示/違反報告)
リュウア(プロフ) - 完結おめでとうございます。占いツクールの小説で物凄く久しぶりに泣きました。作者様にこのコメントが読んでいただけるか分かりませんが本当に面白く、何かを考えさせられる小説でした。とっても面白かったです。 (2017年5月28日 21時) (レス) id: ef6262a277 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 何か主人公が理不尽すぎる気がします (2017年3月30日 21時) (レス) id: be64f1ec17 (このIDを非表示/違反報告)
ルアルア(プロフ) - いの近さん» コメントありがとうございます!私も、読者さんと同じ気持ちです!素敵と呼ばせてもらえる主人公と松野兄弟が書けて良かったです!最後までありがとうございました。 (2017年1月22日 11時) (レス) id: 095eb051dc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ルアルア | 作成日時:2016年10月23日 18時

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