【黒バス】見える？そんなの気分次第【花宮真】

徹夜とグリム童話集 ページ22

やばい。ついに一睡もできなかった。
なんなんだろう、あれだ、寝る間も惜しんで起きてたんだよ。

ただ単にいじを張ってただけです。
ごん、とおでこを机にくっつける。

「A起きてるー？」

…だれかと思った。
原クンじゃないですか。ガムの甘ったるいにおいがする。

「起きてるけど…徹夜したからおねむだよ」

「え、なんで徹夜したの！？特にやる意味無くね！？」

ハイハイ、どうせ真っ平らなプライドまもってましたよ、
なんて自分にあくたいをついてみる。

「まーとりあえず、おかゆな！もちろんザキが作ってくれたヤツ」

わーい、とぐったりとした感じで両手を上げる。
もちろん、机に突っ伏したままで。

「食わせてやろうか？」

「んー、おねがい」

ほら食え、と言うように、原クンがおかゆを口の前に持ってくる。
ぱく、なんてこうかおんは未だに付きやしないけれど。

数十分がたち、最後のひとくちを食べ終わる。
ふつうにおいしかった。

「じゃ、俺さー、お椀片付けてくっから」

「はーい」

返事をしながら、近くのグリムどうわしゅうを手に取る。
ばん、と大きなおとがしたのはその瞬間だった。

グリムどうわしゅうを持ち上げていた方が、消えたらしい。

…実感がわかない。



どういうことだよ、

左腕がすべて消えるなんて。

「意味わかんないや…」

そう呟いて、まだある右手でグリムどうわしゅうを取った。
どうわしゅうは、持ち上がらなかった。
何回も、何回も、グリムどうわしゅうを持ち上げた。
ただずっと。ずっと。ずーっと。
さわさわ、と窓の外の木々が揺れる。どうやら今日は風が強いみたいだ。
あれ、と壁を見ると、窓が開いていた。

「ああ、かぜが強くてどうわしゅうが押されるのかぁ」

自分を納得させ、窓を閉めようと椅子から立ち上がろうとする。
鈍い音が部屋にひびく。

体が床に打ちつけられる。

「痛…」

ばん、と扉が開く。

「Aっ!!」

あせった声が聞こえる。原クンが駆けつけてくれたみたいだ。


ねぇねぇ助けて、原クン。
僕、なにもできなくなってる気がするんだ。
自分の足でたてなくなって、自分の手でもてなくなって。
迷惑かかってるとおもう。
だからさ、



「ごめんね」

「謝んなよ…。A、痛いとこある？」

返事をした後に、電気が走るような痛みを感じた。
椅子に頬をぶつけたらしい。

「やっぱ怪我してんじゃんか…。」

ちゅ、と小さなリップ音が耳に届くまで、あと2秒。


【頬へのキスは、親愛の意味】

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