ノート、雑誌、古びた絵本のグリム童話。 ページ18
次の日も、その次の日も、食事を拒否した。
僕の体重は面白いように落ちていった。
本当は、本当は。
食べたかった。でも、もう古橋クンに頼りたくなかった。
真っ平らなプライドを守り続けた。
涙は留まることを知らずに、僕の頬を伝わり落ちる。
がちゃん。
無機質なドアの開閉音に、体が跳ねる。
「…なに泣いてんだよ」
ドアのところに花宮クンが立っていた。
ノートに雑誌、それに…古い絵本。
花宮クンには似合わない、メルヘンな絵本だな、と思った。
「喉は消えたら戻らない。そんな気がしてならない」
花宮クンは僕の返答を無視して雑誌をめくり始めた。
……聞こえてないのだろうか？
喉が消えた、ということは声帯も消えた、ということなのか。
耳元で声をかけてみる。
「聞こえてる？」
「うるせぇんだよ、バァカ！」
荒々しい声が部屋に吐き出される。
はぁ、と花宮クンはため息を吐き、スラスラとノートに何かをかいた。
それから、ノートをこちら側に傾けられ、ここを読めとでも言うように指をさした。
書いてあった言葉は――
『もう、死にたいか？』
…正直、驚いた。口で言えばいいことを、わざわざ紙に書くなんて面倒な方法をとるのだから。
それからまた、スラスラと何かをかき始めた。
花宮クンは、これでも読んどけ。なんて風に古い絵本を僕に差し出してきた。
【グリム童話集】
グリム童話…懐かしく感じた。小さい頃、誰かに読んでもらったことがあった気がする。
童話と言えば…赤ずきんやいばら姫も読んだ記憶がある。
もう5分はたつだろうか。花宮クンがシャーペンを置き、ノートをこちらに向ける。
『お前のことだから死にたくないんだろ？
じゃあ泣いてるばっかじゃなくて他にやることあんだろ。
どうせ自分で自分の余命くらいわかるはずだしな。
さっさとやることくらいやっとけ。死んでも後悔しないように。』
「あぁ、それから」
花宮クンが立ち、僕の手をぐい、と引っ張る。
それから指先にキスを落とした。
「お疲れ様。これから先、何してもお前の余命は10日だ。
どうあがいたって、10日の運命からは逃れられない。
ひっくり返せば、交通事故にあっても死なねぇってことだ。
ふはっ！まぁせいぜい有意義に過ごすんだな！」
ばたん、とドアが閉められる。
……そういえば、絵本を返すのを忘れていた。明日にでも返そう…いや。
ずっと貰っておこう。
ふと思い出した言葉。
『指先へのキスは、賞賛の意味があるんだって。』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 26人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
霧崎沙流＠天ぷら系女子(プロフ) - [忘却王]れおさん» 面白かったですか…。とても嬉しい限りです。こちらこそ、この作品を最後まで読んでくださりありがとうございます。 (2014年3月29日 22時) (
レス) id: 212878b2bc (このIDを非表示/違反報告)
[忘却王]れお(プロフ) - 完結おめでとう。すごく面白かったです。終わらせ方も好みでした。ありがとうございました。 (2014年3月29日 22時) (レス) id: 8ad14d2c12 (このIDを非表示/違反報告)
霧崎沙流＠天ぷら系女子(プロフ) - ★黒猫★さん» コメントありがとうございます！更新頑張ります！ (2014年3月20日 18時) (レス) id: 212878b2bc (このIDを非表示/違反報告)
★黒猫★(プロフ) - 続きが気になります．更新がんばってください！ (2014年3月20日 16時) (レス) id: a547ed74fa (このIDを非表示/違反報告)
★黒猫★(プロフ) - 続きが気になります．更新がんばってください！ (2014年3月20日 16時) (レス) id: a547ed74fa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：霧崎 沙流 | 作者ホームページ：http://yaplog.jp/kirisaki73/
作成日時：2013年7月19日 21時
