【黒バス】見える？そんなの気分次第【花宮真】

消えたら戻らない部位。 ページ17

著しい体調の悪化。
医者じゃなくても瞬時にわかるだろう。
まぁ、見えていなかったら意味はないが。

気持ち悪い渦が僕を飲み込む。
喉が切れたようで、ぼたぼたと血が垂れる。

苦しい。
気持ち悪い。

再度、吐きそうになる。が、堪えた。
【ここで吐いたら、自分が消えてしまう。】
脳裏に出てくる言葉に、堪えざるを得なかったのだ。


「消えたくない、絶対に、絶対に…消えるもんかっ……」

そうやって思ってないとすぐに吐いてしまいそうで。


『助けて。』


そんな言葉なんか出てこないんだ。
僕が見えるのはごく一部の人間だけ。
助けてくれる者など、きっといないだろう。

きっと。
希望はかすかにあった、気もする。
僕の周りに、助けてくれそうな利口な奴らが1人…いや、2人くらいいる。

花宮クンと、古橋クンだ。

花宮クンは、まぁ命の恩人のような…そんな感じだ。
古橋クンは…何かと世話を焼いてくれるし、ちょうどいい、といったところか。

「生きてるか、A」

噂をすればなんとやら。

「古橋クンじゃん。…おかゆ頂戴」

最近はおかゆしか食べていない。
熱くてドロッとしたものしか食べたくないのだ。何故かはわからないが。
そういえば、喉も掠れているらしい。例えるならアナログ放送の砂嵐みたいな…。

「今日は張らなくても大丈夫そうだな」

「え、本当に？」

ワクワクしながらお椀を持とうとする。


…持てた。
左手で。今まで消えていた左手で。

正直とても嬉しかった。消えたところが戻ってきた。
一昨日くらいの花宮クンの言葉を思い出す。
『バァカ、気の持ちようでもちったあ変わんだろ？』
花宮クン、ありがとう。変わりました。びっくりです。

クスクス、と小さな笑い声が聞こえる。
珍しく、古橋クンが笑っている。

「おかゆ、冷めるぞ？」

感激している僕をよそ目に笑う君。
珍しいこともあるもんだ、と思いながらおかゆを口に運ぶ。




ぼたり。

「ぇ…」


まさか。

まさか、こんなことが起こるなんて。
思ってもいなかった。思えるやつこそいないだろう。

「嘘、だっ……！」


【喉が消えて、食べ物が通らない】なんて。


結局その日は、何も食べずに過ごした。
お昼も夜も、全部拒否した。

ショックだった。なんとなくわかってしまった。
喉は消えたら戻らない、そんな感じがしてならなかった。


布団の中にくるまって、一人暗闇の中で泣いた。
何もかも嫌になった。声もうまく出せなくなった。



死んだ、気分だった。

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