それ、わたしじゃないです。２【佐野万次郎】

rumor,83 ページ42

ああ…この手を取ってしまいたい、
こんな苦しいのはもう嫌だ


いっそ、松野くんのことを好きになりたい









「オレの手、掴んで……A」









…そこで名前呼びなんて、ズルい。




私の手はゆっくりと上に上がり、
松野くんの手を……___掴んでいた。


そのまま松野くんはグイッと
私の手を引いて立ち上がらせると
私を力強く抱きしめた。


彼が持っていた傘が地面に落ちて、
私達は雨に打たれている。









「ッ、松野くん」




「千冬」




「え？」




「千冬って、呼んで？」




「………千冬、くん」









佐野のことなんて、
名前で呼んでほしいと言われても
名前で呼ばなかった。


でも今は、千冬くんに言われたら
すんなりとその名前が口から出た。




……ああ、そっか…

私はその時から、佐野のことが…_____

恥ずかしくて、名前なんて
口に出来ていなかったのかもしれないね。


今分かったとしても、意味なんてないのに。









　









・









　









(no side)









数日前、千冬が雪村に
初めて出会ったその日のこと___









「千冬ぅ」









集会が終わり、神社から
場地と千冬は 団地までバイクで戻った2人。


バイクを止めるなり、場地が千冬に声をかけた


場地の顔はニヤついており、
千冬は何だか嫌な予感を覚える。









「ば、場地さん…？」




「千冬ぅ、おまえ……惚れたな、あの子に」




「はっ!!?」




「雪村Aちゃん」









千冬の顔は赤くなっていき、
口をパクパクさせていた。


"初心だろ"と場地は変わらずに笑っていた。









「ち、違うんす…違うんですよ!!」




「は？嘘つくなよ」




「駄目なんです…あいつのこと、
好きになっちゃいけないんです…」









今日、初めて出会った雪村A。


木の上にまで登って猫を助けるような変な奴。


そんな変な子でも、心から優しくて
あんな子、なかなかいない。


思いやる心があって、笑った顔は可愛くて…

千冬は完全に惚れていた。


でも、今日の集会で
マイキーと雪村の姿を見て思った。


この2人は、お互い好き同士だって。


それに、マイキーの目は本気で
誰にも奪わせないと言っているような姿だった


…そんなマイキーが好きな子を
自分なんかが…と、千冬は思っていた。

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