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路地裏をナオトと駆け抜けながら、さっきの大寿君の言葉を思い出していた。
しがみついてた男。それから、財布だった男。
二人なら、何か知ってるんじゃないのか…?黒川イザナについて、なにか…!
俺は足を止めてナオトを呼び止める。
走ったせいか、増して心臓がうるさい。
『お、俺、関東事変のことをもっと、ちゃんと知っておきたいんだ!』
『タケミチ君…』
ナオトの瞳が揺れる。
『戻ろう、大寿君のところに戻らなくちゃ!』
『タケミチ君、そんなの無謀だ!』
…俺たちはまだ、暗闇に紛れた人影に気付けない。
『でも、!』
かちゃり。
乾いた音に、は、と我に返ると、自分に向けられる銃口。
身体が固まった。目だけを動かしてその人影に目を凝らす。
『タケミっち。』
『……稀、咲』
『死ね。』
どんっ。
鈍い音が路地裏に轟いた。
びりびりと俺の鼓膜が震えている。ただ、覚悟したはずの痛みはまだ訪れない。
おずおずと目を開いて、目の前に広がる景色に息が詰まる。
俺を突き飛ばし代わりに銃弾を受け止めたのはナオトだったのだ。頭が追いつかない。
何が起きた?
重力に従って地面に落ちていく動きが、嫌にゆっくりに見えた。
『ナオトぉお!!!』
『ちっ、余計なことを』
『しっかりしろ、ナオト!』
『タケミチ君…逃げて…』
がふ、とナオトが赤黒い塊を吐き出した。硝煙と血の匂いにクラクラする。
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作者名:亜秀 | 作成日時:2022年2月6日 20時