マリアに、懺悔。【1】 (ページ22)

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マイキーくんの上着を受け取った俺は、一歩後ろを小走りで追いかけていた。

『安心しろ、エマ。もーすぐ病院だからさ』

こっちで死なれたら、俺にはもう、どうしようも出来ないんだ。

悲しいかな。神頼みしかできない俺は、歯を食いしばり、手のひらに爪を食い込ませながら、彼女の無事を祈っていた。

『……まい、きぃ…？』

『エマちゃん！？』
『…あ、れ、身体が、うごかない』

息も絶え絶えなエマちゃんがぽつり、ぽつりと呟く。
まるで自分に言い聞かせていくように。

『そっ、か……うち、ばいくに…』

だらり、と力無く垂れている脚が何だかやるせない。
マイキーくんが元気付けるように、エマちゃんに声を掛ける。

『…覚えてるか、エマ。お前がが5歳の頃、俺の事追っかけて、ジャングルジムから落ちて、足折ってさ。

あん時以来だな。おまえおんぶすんの』

エマちゃんがすり、とマイキーくんの首元に頭を寄せた。

『ねぇ』

『ん？』

『うちに、もしもの事が、あったらさ』

『ばーか。もしもの事なんて、ねーよ』

『ドラケンに伝えて』

ケンちゃん、愛してる、って。

『…自分で伝えろよ』

『たけみっち、』
『うん』
『まいきーを、おねがいね』

エマちゃんは目に大粒の涙をいっぱいに溜めて、小さな声でそう告げると、組んでいた腕をすとんと落とした。
後ろから見ていても分かる。がくん、とエマちゃんの全身から力が抜けて、マイキーくんに覆い被さるのが。

『……エマ、ちゃん？』

『エマっ…エマ！？…っあのさ、秘密にするって、ケンチンと約束したけど、ケンチン、おまえのこと、好きなんだぜ。

両想いなんだ。

だから、病院着いたら、すぐケンチン呼ぶからさ。な、エマ』

だんだんとマイキーくんの声がしぼんでいく。
ふるふると震えて、力が抜けていく。

『…タケミっち。俺の上着、エマにかけてやってくれ』

『…え？』

『エマが、なんか冷てえんだ』

マイキーくんが、そう言った途端、ぶわ、と自分でもわかるくらい涙が押し寄せて、滝のように流れ落ちていった。
自分の涙で溺れるんじゃないかってくらい。

俺は、嗚咽をなんとか飲み込みながら、もう返事もエマちゃんに対して語り掛ける、マイキーくんのその独白を聞き続けていた。

──俺たちが、もうすっかり冷えたエマちゃんの身体を病院に運び終えた頃には、15時を回っていた。

俺は、覚悟を決めたようにドラケンくんに連絡するマイキーくんを、ただ黙って見ることしか出来なかった。