30と閑話 ページ36
痺れた身体がだらりと彼に垂れて、思うように身体が動かせない。
『どこに、いくの』
『言ったらつまんねえだろ』
ほんのすこし、この通りを抜ければ大通りに出れるのに。
賑やかで、明るい街のひかりがどんどんと遠ざかっていく。
わたし、人に殴られたのなんて、はじめて。
いままでケンカ自体は、間接的に近くにあった気がするけど、シンイチローくんやマイキーくんがそっと遠ざけてくれてたんだと。
イザナくんは今の今まで振るわなかっただけでこんな力を持っていることに気が付いて、今更怖くなる。
深い闇に溶け込む彼の爪先が、止まってくれればと心の底から思う。
でもそんな抵抗を口にも行動にも出せなかった。
ぐわんぐわんと視界が、内臓までもが揺れる。頭のてっぺんから爪の先まで痺れて、立っていられなくなる。ここでやっと、状況を理解して痛みが思考に追い付く。
また、殴られるのがこわい。
こんどこそ、失神してしまう自信がある。
イザナくんなら、大袈裟だなってまた言うと思うけど、普段ケンカと程遠い人生を送っている人間なら、きっと死さえ覚悟する。
『甘い』
『…………私の思考が?』
『それもだけど、お前の匂いが』
『…ケーキの匂いかな。じぶんじゃわかんないや』
…だから、私はイザナくんのされるがままになった。
言い方を変えてみたらどうだろうか。私は、彼の全てを肯定したのだ。だから、普通の生活も捨てた。
そうでもしないと、また拳が私めがけて飛んでくるんじゃないかと不安になったのも、そう。
だけど、あんまり寂しそうな顔をするから。
こっちまで泣きたくなるような、顔をする時があるから。
『私だけは、君のすべてを認めてあげなくちゃって、思ったの』
……走りながら冷たい風を切っているうちにどんどんと頭が冷えて、幾分か冷静になれたと思う。
ピリつく空気を纏っている第7埠頭。沢山のバイクの間を縫って、彼らのリングへと向かう。
『だから今度は、私があいにきてあげたよ。イザナくん』
───────
ここの辺りから関東事変終盤まで繋ぎの書き溜めが無く、辻褄が合うように色々考えながら書いています。いままでのペースと比べて、更新が遅れてしまうと思います。申し訳ありません。
やっとまなかちゃんが第7埠頭まできました。よかった。
31話の更新までしばしお待ちください。
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作者名:亜秀 | 作成日時:2022年2月6日 20時