噎せ返るほど甘い匂いの中で

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その日から仕事の日は北山が迎えに来てくれた。


雑誌もラジオもロケもすべて北山とペア。

今まで絡みがなかった俺たちが急にすべての媒体でペアを組むから、何が起こったのかとファンが大騒ぎしているとマネージャーから聞いた。


グループ全員での仕事の時はまず二人にあてられた楽屋に入り、北山が五人の楽屋に行って弁当を持って戻って来る。


「はい、鮭弁当」


こんな状態になって二か月にもなれば、好みの弁当も分かってくる。


「ありがとう」
「余ってたら持って帰る？」


あれから少しだが同じ病気の同業者も増え、テレビ局側にも伝えやすい状況にはなってきた。

だが分かっているから大丈夫というものではなく、ほとんどはしばらく休業するという形をとる。


「今日はうちで食べないの？」


仕事以外の会話がなかったのが嘘のように、今では週2回は俺の家で一緒に食事をしている。


「この後の仕事が遅くなりそうなんだよね」


北山に個人の仕事がある時は、一旦俺を送ってから自分で次の現場に向かう。大変だからマネージャーに頼むと言ったが、心配になるから自分が行った方が楽だと言われた。


この言い方だと今日は日付近くまでなのかもしれない。


そうだねと言うと、じゃあもう一個弁当もらってくるわと出て行った背中を見送った。


別に一人で食事が出来ないわけじゃない。ただ今日は一緒に食べられると思ってたから、少しガッカリしただけ。

広いスタジオで北山を隣に置いてのトークはあるが、基本的に北山以外と顔を合わせての会話はない。だから北山がいないと俺は話すことも一緒に食事を取ることも出来ない。


聞いた話によると発症した人は、休業期間中に鬱病を併発する場合も多いとか。俺は運よく北山がいたが、そうじゃなければただずっと家に籠っていなければならない。
いつ治るとも分からない、もしかしたらこのまま一生こんな生活をしなければならないのかもしれないと考えるだろう。しかも俺たちは人気商売で、少しの間出ないだけでその場所を奪われてしまうかもしれない。そう思うと心が病んでしまうのも分かる。


だから本当に北山には感謝している。
　

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