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「……え? 何ともないの?」
「甘い匂いはするけど、いい匂いだなーくらい」
「マジ?」
「うん」
北山はいつもと変わらない様子で、嘘を言っているとは思えない。
「うそ、えっ、こんな奇跡ある?」
誰も口には出さなかったが最悪の事態も想定していたから、思わず大きな声が出てしまった。
「よかった」
北山は驚いたように目を大きくしたあと、少し照れくさそうに目を細めて笑った。
「えーと、とりあえずマネージャーに連絡して」
その顔に俺もなんだか恥ずかしくなって話を逸らすようにチーフマネージャーに電話を掛けると、電話口の向こうから大きな声が聞こえてかなり心配を掛けていたんだろうことが分かった。
話し合いの結果、しばらくの間すべての仕事を北山と一緒にやることが決まった。
個人の仕事を受けられないのは辛いが、とりあえずグループとしての活動は続けていけそうでほっとする。
「北山はいいの?」
「悪いとかないだろ、同じグループなんだし」
当たり前だろって普通のテンションで言われ、なんだかくすぐったいようなそわそわした気持ちになる。
「あと思ったんだけど、迎えも俺が行った方がよくない?」
「北山が?」
「藤ヶ谷が出かける時は、俺と同じ仕事なわけだろ。マネージャーも効いちゃってるんだし、だったら俺がやればいいんじゃないかって」
確かにそれは効率的かもしれないが、ただでさえ合わせてもらう形なのに更に時間を使わせるのは申し訳ない。
「食事とか日用品も一人じゃ買いに行けないだろ? だから一緒に行くか、俺が買っていった方がいいと思うんだよね」
仕事が出来なくなるんじゃないかとは思ったが、生活のことまで考えが及んでいなかった。
こんな提案をしてくれるんだから、北山はきっと沢山考えてくれていたのだろう。
「いいの? 迷惑じゃない?」
「困った時はお互い様だろ。メンバーなんだし遠慮なんてしなくていいから」
北山の兄貴っぽいところを久しぶりに見た気がした。
今では仕事以外で話すことは稀だが、兄貴のような存在だった時期もある。
「わかった。じゃあ、よろしくお願いします」
「おぅ、よろしく」
正直なんで一番気まずい北山と思ったが、案外上手くやっていけるかもしれない。
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ちび(プロフ) - めっちゃわかります、私も匂い、香りとか良いですよね、記憶に残りますしね、私もめっちゃ色気感じます、好きな話でした。 (2023年4月27日 0時) (レス) id: ff59837987 (このIDを非表示/違反報告)
くらげ(プロフ) - ちびさん» ちびさん、沢山読んでくださりありがとうございます。匂いってめちゃくちゃ色気あると思っているので匂いが盛り込まれている話を多く書いている気がしますが、文字から匂いを感じてもらえたら嬉しいです。匂いに関する話をまた書いた時は読みに来て下さると嬉しいです。 (2023年4月27日 0時) (レス) id: 4781cdc11c (このIDを非表示/違反報告)
ちび(プロフ) - こちらも読ませてもらいました、設定楽しいですね。イチャイチャめっちゃ嬉しくなりましたわ、可愛い2人ですね、でもこれFKは本当セクシーだから香りありそうですよね。いい匂いするね、なんか、のですね😊 (2023年4月16日 22時) (レス) @page19 id: ff59837987 (このIDを非表示/違反報告)
くらげ(プロフ) - 雅さん» 雅さーん!あの描写からKさんがいつもFさんを気に掛けているのを読み取ってくださりありがとうございます。そういうものとして書いていたので確かに!と思いました。どんな関係か分からない二人を書くのは久しぶりでしたが私も好きです!いつもありがとうございます! (2022年12月6日 20時) (レス) id: b17685444c (このIDを非表示/違反報告)
雅(プロフ) - こんばんは!Kさんが予定があると断ったのに連絡してきたところ、Fさんの病気のこともあるけれど常に気にかけてるのが伝わって素敵でした!そして結局家に行っちゃうんですよね(*´ω`*)お互いがまだどんな関係位置にいるか分からない時のFKもとても好きです! (2022年12月4日 16時) (レス) @page14 id: 533dfc9d96 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くらげ | 作成日時:2022年11月26日 17時