噎せ返るほど甘い匂いの中で

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「好きな人はいい匂いがすると言われますが、これも科学的根拠はありません。イメージだと思われていますが、実は恋をするとフェロモン感覚が過敏になる人がいるんです。人数としては少ないんですが、その人たちは病を発症していなくても好きな相手の匂いを感じます。ですのであながちイメージだけではないでしょうし、フェロモンと匂いと恋愛は繋がっている場合が多いんです」

「その人たちは相手を襲ったりしないんですか？」


ロマンチックな話なのかもしれないが、何度も襲われそうになった身としては事件性がないのかが気になった。


「フェロモン症候群とは違い、基本的に匂いはそこまで強くないようです。中には強い匂いに変わっていく場合もあるようですが、徐々に変わっていくので強い匂いに変わる頃にはその匂いに慣れてしまっているんです」

「慣れる？」

「音も慣れないうちは気になりますが、繰り返し聞いていれば気にならなくなる。それと同じでずっと同じ匂いを嗅いでいれば慣れてくるし、徐々に変化したものには気付かない。期間が長くなればなるほど当たり前に匂いが存在していて、免疫のような状態になってくるんです」

「先生と同じってことですか？」

「まあそうですね。私の場合は強い匂いを大量に嗅ぐことで耐性を得ましたが、その人たちはゆっくり時間を掛けているのでそういうものとして違和感すら持っていません」


どれくらい強い匂いなのかは分からないが、俺と似たような匂いを平気で嗅いでいる人がいるかもしれないと思うと不思議な気がした。

もしかして周りの人たちが慣れてくれる未来もあるんじゃないかと思ったが、その為には長い時間が必要だし、現状は治るどころか匂いが強くなってしまっている。


興味深い話は聞けたが結局原因は分からないまま、薬は忘れず飲んでくださいねと帰された。


マネージャーに報告するとあからさまにガッカリした雰囲気で、申し訳なく思う。


好きな人と両想いになれば完治するかもしれないらしいが、新しい出会いが期待できない今、好きな人を見つけることも難しい。仮に見つけたとしても、会うことが出来なければ両想いになるなんて夢のまた夢。
　

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