【薄桜鬼】～感情のない忍び～ (ページ12)

今日:8 hit、昨日:1 hit、合計:8,603 hit

九ページ12

今日は皆で島原に来ていた。

「じゃんじゃん飲めー！」

永倉たちが騒いでいる中、一人の芸妓が私に寄り添ってくる。その見覚えのある顔に、私は驚く。

『お咲…！』

名前を呼ぶと、お咲は人差し指を口に当てて目配せをした。私は黙って頷く。幸い他の奴らには気づかれていなかったので、私はそのまま廊下へ出た。

「久しぶりね、A」

『ああ』

「くすっ。随分と男らしくなっちゃって」

妖しく笑うと、お咲は私にそっ、と寄り添った。

『ふざけるのも大概にしろ』

「ひどぉい。私はわざわざ島原に潜り込んでまで様子を見にきてあげたのに」

「監視か？」

『違うわよ。本当に心配だから来ただけ。まぁ、ここ付近で仕事があったのもそうだけど」

お咲はこれでもくノ一だ。昔から私と一緒に育ち、共にくノ一として生きてきた。だからと言って、これと言った感情はない。ただの同業者、というだけ。

「で、調子はどうなの？」

『順調だ』

「ふぅん。Aがいないとめんどくさい仕事がこっちまで回ってきて迷惑なのよね。早く終わらせて帰ってきてちょうだい」

『貴様の都合なんか知るか。それとこの報告書、主に渡しといてくれ』

ぽん、と新選組の情報が書かれた報告書を渡すと、お咲は露骨にいやそうな顔をして、ため息をついた。

「はいはい。わかりましたよっと。んじゃあ、健闘を祈るわ」

ひらひらと手を振って、お咲はまた座敷へと戻って行く。その後ろ姿を見つめてから、私もその場から去った。