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『たこ焼きもーらい。』
少し身を乗り出して、京介が手に持つたこ焼きをひとつ奪い取ろうとする。
でもその私の右手は、京介の左手によって掴み取られた。
そんなに嫌だった!?と抗議しようと京介の顔を見上げると、今まで見たどんな顔でもない、真剣な顔でも、冗談を言うときの顔でもない。
熱のこもった眼差し。
『き、京介…?』
声をかけても何も返事をしてくれない。
京介を見て、直感的に悟った。
これは、
夏祭りの熱に侵されて、この空気を拒むことができない。
今まで経験したことのないこの雰囲気。
思わず背筋がゾワっとした。
思わず離してしまった箸が視界の端で地面に落ちるのが見える。
けれど、そんなこと気にならない。気にしてはいけないと、京介の目線は私に言っている。
ドンッドンッと、控えめに上がっている余興の花火。
ここから大きな花火が上がって一気に盛り上がるんだろうな。
そんな花火でさえも、どこか遠くで上がっているのかと思うほど、自分の心臓の音しか聞こえない。
世界には、私たち2人しかいないのではないだろうか。
たぶん、京介に右手を掴まれてから数秒しか経っていないだろうけど、もう何分もそうしているような気がしている。
そして
京介と私の影が重なったとき、私の世界に音が戻ってきた。
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作者名:通りすがりのいぬ | 作成日時:2022年3月7日 16時