僕はただ、33 ページ34
*
有り得ない。
いや、有り得てはいけない。
僕が___僕が、負けるなど。
焦りを感じた。玲央たちに失望し、僕だけでも勝てると、そう思っていたのに。
テツヤが、まさか、ここまで。
焦りは、油断へ。油断は、失敗へ。
普段なら簡単に入るはずの3Pを外し、そして僕の熱は急速に冷めていく。……ゾーンは切れた。これ以上、きっと僕はもう。
タイムアウトの声が聞こえ、ベンチに戻る。
監督の何とも言えないその顔が、その目が、その口が、「お前はもう用済みだ」と言っているような気さえした。
しかし、監督の声よりも先に、聞こえた。
「無様だな」
そう言って僕を嘲笑う、千尋の声が。
「慰めたり励ましたりするとでも思ったか?しねぇよそんなこと。俺は聖人じゃねぇし」
……正論だ。
「ただ気に入らなかったから文句言いたかっただけだ。あれだけ偉そうなこと言っといてお前こんなもんか」
……正論だ。
俺の目の前で、ベンチに座る僕を、千尋は表情一つ変えず見下ろした。
「俺にはそうは思えないんだけどな。屋上で初めて会った時とは別人だ」
……あの時から、無礼な後輩だっただろう。
日頃の鬱憤を、ここぞとばかりに、今、僕に?
「つーか、誰だお前」
分かっている。
千尋が言ったその言葉は、「俺」を知って言ったわけじゃない。
だが……嗚呼、嗚呼、やめてくれ。"僕"は、"僕"はただ。
……"俺"が生み出した、"俺"が弱いせいで生み出したんだ。
どうせ、あの頃には戻れない。願ったところで、壊したのは紛れもなく"俺"だ。
それならば、高校で戦って、かつての仲間が"僕"を倒してくれたらいい。
犯した罪は消えない。誰かの心に深い傷を負わせた事もなくなりはしない。
ならば"俺"が。
誰よりも強く、誰にとってもの敵になろう。
そんな思考の"俺"の意識が、ゆっくりと浮上していく。
"僕"が沈み始める。
___僕は、結局最後の最後まで紛い物だったな。……だが、"俺"が恋した棚倉Aと言う存在を"僕"は愛してしまった___
「……知っているよ、自分の事だからね」
___願わくば、もう一度だけ。もう一度だけで良い……彼女に、会いたかった___
「……会わせてあげるよ。だって、その気持ちは本物だ」
そう呟いた。
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西谷彩香(プロフ) - QOOさん» コメントありがとうございます。原作のストーリー沿いだったこともあり、全くと言って良いほど描かれなかった赤司様視点で書くのはなかなかに難しかったですが、そう言っていただけで光栄です!ありがとうございました。 (2018年3月29日 9時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
QOO - やっぱり誠凛VS洛山の試合は感動ものですよね・・・思わず泣いてしまいました。征君が夢主ちゃんに惚れたのもわかるような気がします。とても面白かったです!!これからも頑張ってください!! (2018年3月29日 8時) (レス) id: 5adcb33c47 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:西谷彩香 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kunimi251/
作成日時:2018年2月9日 19時