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例えるなら、そう。
ゆっくりとゆっくりと沈んでいく感じ。
水面にあがりたいのに、重石が付けられたみたいに
どう足掻いても沈んでいってしまう
沈んで沈んで、私は底に辿り着いた。
「ここは…お庭?」
底は、家の庭だった。
満開の枝垂れ桜が風に揺れていた。
でもおかしい。家に誰もいない
明かりもついておらず、なにより
「家に、行けない…?」
私と桜の周りには変なモヤがかかっていて、
そこから外に出られないのだ
どうすればいいのか、
そもそもここは本当に家なのか。
そんなことを考えていた時のことだった
「あら、意外と早かったのね」
桜の木から声がした
「誰?」
桜の花びらで姿は見えない。
けれど確かに桜の木の上に人がいる
「貴方が私を連れてきたの?」
「違うわ。貴方は自分でここにきたの」
「私が?」
「ええ。こんなに早くに来るとは思わなかったけど…
まあ、あの状況なら仕方ないわね」
「ど、どうやったら帰れるの!」
「まあそう焦らないで。見て、いい月よ」
そう言ってその人は月を見上げた
私も月を見る
確かに、眩しいほどの月の光に朧げにたなびく雲
とてもいい月、いい夜だった
「こんな夜はね、清風明月の夜って言うの」
「清風明月?」
「そう、清らかな風に明るい月。
こんな静かな夜のことよ」
「ふぅん…
ねえ、貴方はいつもここにいるの?」
「そうね」
「寂しくないの?」
「別に」
「私だったら寂しいなあ。こんな所に一人…」
「一人じゃわないわ」
「えっ」
「私はいつもここから貴方達を見てた」
「そうなの?」
「今日はたまたま、貴方から会いにきただけ」
「そうだったんだ…」
少しだけ、安心した。
ずっといたのには気付かなかったけれど、
顔も見ていない桜の木の人が
一人ぼっちじゃなかったってわかったから。
「さあ、もう朝だよ」
「ホントだ…」
気づけば、東の空が白んでいた
「でも、どうやって帰ればいんだろ…」
未だに私の周りのモヤは晴れない
「ねえそろそろ教えてよ!私、もう帰りたい!」
「教えるってったって……」
その人が口籠った瞬間、どこからか強い風が吹いた
あまりの強さに私は思わず目を閉じた。
風はモヤを巻き上げ、桜の枝を大きく揺らす。
「そろそろ起きなよ、私」
そう、聞こえた。
僅かに開いた目が移したのは
桜の木の枝に座り、微笑んでいた私だった________
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作者名:kumakarin0110 | 作成日時:2020年7月7日 22時