9・虫籠 ページ11
飛蝗現象の翌日。結局夜明けまで飛蝗を見送って夜更かしした私はあくびをこぼした。
一度飛蝗現象の後に砂の海に出たことがあるが、かなりの数の飛蝗が砂に落ちて死んでいた。
彼らは数時間前、まるでどこか遠い場所に旅立つように飛んでいたのに。結果、こうしてどこへも行けずに死んでいた。
それを見てから、飛蝗現象を観るのは妙に哀しい。
だってどんなに光っても、高く飛んでも、どこへも行けない。辿り着けない。なのに外の世界を求めて飛んでい行く。
そんなの、哀しいだけだ。
この泥舟は虫籠と同じ。私達だって籠から出ようとすれば、きっとああして死んでしまうのだろう。
籠から出ようとして力尽きて死ぬか。籠の中でぬくぬくと死ぬか。
多分、前者はオウニ君達体内モグラで、後者はその他大勢なんだろうな……と睡魔がさし始めてぼうっとしてきた頭で考える。
「……おい、外が騒がしくないか」
しかし眠ろうとして膝に顔を埋めた私をオウニ君の声が無慈悲に叩き起こした。安眠妨害も甚だしい。
私は渋々顔を上げて耳を澄ます。確かに朝から騒がしいようには思うが……否、騒がしいと云うか──
「出して」
私は立ち上がると、檻の隙間から手を伸ばして見張りの服の襟を引いた。バランスを崩した見張りの耳に顔を近付けて低い声で繰り返す。
「出して。今すぐに」
「うぇっ!?な、何で……」
「外の様子が変だ。良いから出せ。何も無ければすぐに戻る」
聞き分けの良い見張りはオウニ君のただならぬ雰囲気を察したのか、すぐに檻の扉を開けた。私を押し退けてオウニ君が外に飛び出す。
見張りと私もその後を追って地上に出た。
「…………!」
泥クジラが、攻撃を受けている。それだけはすぐに理解出来た。
道化師のような格好をした覆面の人間が、武器を手に泥クジラの住人を次々に殺している。
塔は砲撃でも受けたかのように所々煙が立っている。否、実際に受けたのだろう。空中をサイミアで浮遊した舟が飛び交い、砲撃を浴びせている。
籠から出ようとして力尽きて死ぬか。籠の中でぬくぬくと死ぬか。
それとも──籠の外から来た獣にあらかた食い散らかされて死ぬか。
どうやら新しい選択肢が与えられたようだった。
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猫目 - 今更ながらコメント失礼します!同じく私もシュアン推しなので見つけたときめっちゃテンション上がりました!見ていらっしゃるかは分かりませんんが更新応援しております(^^) (2019年3月26日 20時) (レス) id: 619380b1ab (このIDを非表示/違反報告)
りぃふ - はじめまして。今更コメント失礼します!私はクジ砂中でシュアンがとても好きなので、この小説を見つけた時はすごく嬉しかったです!このお話のおかげで今だいぶシュアン沼にハマってます…笑お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています。(*^^*) (2018年6月24日 19時) (レス) id: f3d7bfc71d (このIDを非表示/違反報告)
なつみん - るりさん» ありがとうございます!同士嬉しいです!最近滞り気味ですが、時間を見付けて更新します! (2018年2月20日 17時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
るり - 初めまして!私も団長さんが好きです!とても良い設定、話で好きになりました。これからもがんばってください続き待ってます (2018年2月16日 17時) (レス) id: 1a80d02d72 (このIDを非表示/違反報告)
なつみん - 裕貴さん» 裕貴さん、はじめまして!私も団長さんが一番好きなので、そう言って頂けると嬉しいです。皆様のコメントを励みに、これからも頑張ろうと思いますので、どうぞよろしくお願いします!コメントありがとうございました! (2017年12月22日 6時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:なつみん | 作成日時:2017年12月17日 16時