８・飛蝗 ページ10
体内とは云えある程度の明かり取り用の窓が取り付けられている為、その光景を観るのは私達にも可能だった。
飛蝗現象と呼ばれる、その光景を観るのは。
所詮は虫の大群なのだけど、光りながら夜空を舞う様はとても綺麗だと思う。そして哀しい。
哀しいもの、儚いものは美しい。私の価値観に置いては。
｢……今年は一緒に観られなかったなぁ｣
壁に背をつけて、溜め息混じりに呟く。
地面に寝転がって窓の外を見ていたオウニ君は何も云わなかった。別に彼に云った訳では無いので気に留めない。
大抵の泥クジラの住人は、見晴らしのよい場所に登って家族や友人と共に飛蝗を眺める。けれど私にはそのどちらも存在しない。
別にそれを憂いている訳ではないけれど、彼らの傍で空を眺めるのは少しだけ憂鬱な気分になる。乱暴に云ってしまえば鬱陶しい気分に。
それ以前に私は大勢で居ることがあまり得意ではない。
それでも一人きりで眺めるには、その光景は私には少し哀しい。だから必然的に飛蝗現象の夜は"彼"を探す。
理由は特にない。ただ、彼の方は面倒だと云うような顔をするけど。
──『せっかく"おんなじ"なんだから、きみとは仲良くしたいんだけどな』
──『そうかい。ボクはキミと仲良くなりたくないんだけどねぇ』
笑って云うと笑って返された。それは困る。もっと単純に、あらゆる誤解を恐れず云ってしまうと私は彼にしか興味が無いのだから。
本当に、極限まで単純に、あらゆる誤解を恐れずに云えば、の話だが。
黙って飛蝗を眺めていると、不意にオウニ君が口を開いた。
｢……アンタ、飛蝗を一緒に見るような人間が居たのか｣
｢気にしたこと無かったけど私、きみにどういう目で見られてるのかな｣
とても失礼な発言だった。
けれど、もしかして私は周りにもそう云う目で見られているのだろうか。
別に人見知りするような性格はしていないつもりだし、引っ込み思案な訳でもない。周りからも特に敬遠とかされてる気はしない。
けれどオウニ君がそう思ったと云うことは、私には何かしら欠点なり問題なりあるのだろう。
当たり前だ。欠点も問題もないような完璧人間が存在するなら堪ったものではない。それは寧ろ人間ではない。
逆に私は欠点と問題ばかりの人間だと思う。
一つ一つあげるようなきりのない真似はしないが、それらは上手く覆い隠しているつもりだった。他人にも自分にも。
──案外、見抜かれているものなのかも。
白み始めた空を見て私は考えた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 28人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
猫目 - 今更ながらコメント失礼します！同じく私もシュアン推しなので見つけたときめっちゃテンション上がりました！見ていらっしゃるかは分かりませんんが更新応援しております(^^) (2019年3月26日 20時) (
レス) id: 619380b1ab (このIDを非表示/違反報告)
りぃふ - はじめまして。今更コメント失礼します！私はクジ砂中でシュアンがとても好きなので、この小説を見つけた時はすごく嬉しかったです！このお話のおかげで今だいぶシュアン沼にハマってます…笑お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています。(*^^*) (2018年6月24日 19時) (レス) id: f3d7bfc71d (このIDを非表示/違反報告)
なつみん - るりさん» ありがとうございます！同士嬉しいです！最近滞り気味ですが、時間を見付けて更新します！ (2018年2月20日 17時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
るり - 初めまして！私も団長さんが好きです！とても良い設定、話で好きになりました。これからもがんばってください続き待ってます (2018年2月16日 17時) (レス) id: 1a80d02d72 (このIDを非表示/違反報告)
なつみん - 裕貴さん» 裕貴さん、はじめまして！私も団長さんが一番好きなので、そう言って頂けると嬉しいです。皆様のコメントを励みに、これからも頑張ろうと思いますので、どうぞよろしくお願いします！コメントありがとうございました！ (2017年12月22日 6時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なつみん | 作成日時：2017年12月17日 16時
